東洋医学のセルフケアで眠れる体質に。タイプ別「不眠」対策とは?|田中友也さん 季節の養生法
神戸にある漢方相談薬局「CoCo美漢方」田中友也さんが、“季節の養生法”をお届けする連載。今月は「睡眠のお悩み」がテーマ。不眠体質別の4タイプやそれぞれの対策を紹介します。
目次
東洋医学でみる“睡眠”の2つの大切な役割とは?
心配事やストレスがあると、なんだかソワソワ、イライラして眠れない。眠れないのは歳のせいもあるの? など、さまざまな理由から不眠でお悩みの女性も多いのではないでしょうか。睡眠は、健康で若々しい体を維持するのに、食事や運動以上に大事にしたい時間です。
睡眠の役割(1)血を入れ替え全身に巡らせる
東洋医学の考え方で、睡眠には2つの役割があります。1つ目は「血」に関わる働き。睡眠中は、「血(血液など)」を、“血のタンク”といわれる「肝(かん)」に戻してきれいに入れ替え、全身にまた巡らせるという役割があります。
睡眠の状態が悪いと、この作業が十分に行われず、血が不足してドロドロになったり、巡りが悪化したりして、肩こりや頭痛、生理痛など、全身の不調につながります。
睡眠の役割(2)「気・血・水」を補ってパワー充電
東洋医学には「陰と陽」があり、夜の時間は「陰」の気が強くなります。この「陰」の時間帯にしっかり眠ることで、「血(血液など)」や「水(体液などのうるおい)」を補うことができます。
また、体を十分に休めることで「気(エネルギー)」も補填できます。「気・血・水」のすべてを一気に補えるのは睡眠だけ。だから1日の終わりにしっかり眠ることが大切なのです。
4つの「不眠タイプ」と原因
不眠といっても、東洋医学では特徴や原因別に4つのタイプに分けられます。自分のタイプを知って対策をすることで、不眠改善の近道になります。あなたはどれに当てはまりますか?
(1)感情の影響を受けやすい「ストレスタイプ」
悩み事、心配事がある、怒りでイライラする、憂鬱な気分が続くなど、感情の影響を受けやすいのが「ストレスタイプ」。寝ようと思っても脳が覚醒してしまい、寝つきが悪い、体は疲れているのに眠れない…という状態に。メンタルの影響により「気」が滞っています。
(2)眠りが浅い「血の不足タイプ」
女性に多いのが「血虚(けっきょ)」といわれる「血の不足タイプ」。生理中や産後などは血が不足した状態になります。血は「陰と陽」でいうと「陰」に当てはまり、体に陰がないため心身を落ち着かせることができません。眠りが浅くて物音で起きる、睡眠リズムが崩れて眠れないといった人がこのタイプ。スマホやパソコンの使い過ぎで、目を酷使することも血の不足につながります。
(3)イライラしやすく眠れない「うるおい不足タイプ」
更年期世代に多いのが「うるおい不足タイプ」。のぼせた感じがする、顔や頭が熱くなる火照りなどの症状があり、ふだんからイライラしやすいのがこのタイプ。これは体の「火」が暴走した状態。しかし、うるおい=「水」不足のため「火」の勢いを止められず、体の上のほうに熱が上がり、不眠になります。
(4)夜遅い夕飯が原因の「消化不良タイプ」
夕飯が遅くなり、食べ終わりから寝るまでの間が短いことが原因で不眠になるのが「消化不良タイプ」。夕飯は、寝る3時間前までが理想的ですが、ギリギリになると消化にエネルギーが優先され、体が睡眠に集中できません。そのため寝つきや目覚めが悪くなります。
「ストレスタイプ」に効果的な対策とツボは?
食養生:「ストレスタイプ」は香りのいい食べ物を
一つ目の「ストレスタイプ」さんは「気滞(きたい)」といって気の滞りが原因で眠れなくなっています。気の巡りを良くするには、柑橘系フルーツや薬味など、香りのいい食べ物がおすすめです。
香りのいい食べ物…柑橘系フルーツ(ミカン、レモン、オレンジ)、セロリ、三つ葉、大葉、パクチー、お好みのハーブティー、ミント(ミントガムでもOK) など
ワンポイントアドバイス:外に向けてストレス発散を
「ストレスタイプ」さんは、体の中にストレスを溜め込んだままにせず、人に話を聞いてもらう、カラオケで大きな声で歌うなど、外に発散する解消法を試してみてください。仕事やプライベートの予定を詰め込み過ぎず、ゆったり過ごすことも大切です。
おすすめのツボ:太衝(たいしょう)
太衝(たいしょう):足の甲の親指と人差し指の骨の間を、上に向けて指を滑らせて、指が骨と当たり、止まるところのへこんだ場所。
押し方:親指の腹を当てて、やさしく押して軽く揉むようにしたり、回すようにしたりして押します。
「血の不足タイプ」に効果的な対策とツボは?
食養生:「血の不足タイプ」は血を補う食べ物を
「血の不足タイプ」さんは、血を補う赤いものや黒いものを積極的に摂りましょう。そのほか、小松菜やほうれん草など、鉄分豊富といわれる食材もおすすめです。
赤いもの…なつめ、クコの実、プルーン、いちご、干しぶどう など
黒いもの…黒ゴマ、ひじき、牡蠣 など
鉄分豊富な食材…レバー、ほうれん草、小松菜 など
その他…鮭、卵、黒砂糖
ワンポイントアドバイス:目を使い過ぎない生活を
スマホやパソコンを長時間使って目を酷使したり、考え事ばかりで脳を使いすぎたりしていると、血を消耗します。血がこれ以上不足しないように、目を休める時間を持つ、仕事や家事などからいったん離れて、ボーっと過ごす時間をつくりましょう。
おすすめのツボ:「三陰交(さんいんこう)」
三陰交(さんいんこう):内くるぶしの頂点から指幅4本分上の場所。※妊婦の方は「三陰交」のツボ押しは避けましょう。
押し方:足首の内側をつかむようにして、親指の腹で押します。
「うるおい不足タイプ」に効果的な対策とツボは?
食養生:「うるおい不足タイプ」は白い食べ物を
「うるおい不足タイプ」さんは、体をうるおす働きのある白い食べ物を摂りましょう。また、体の余分な熱を取る食べ物もおすすめです。
白いもの…大根、レンコン、白菜、ゆり根、白きくらげ、豆腐 など
体の余分な熱を取るもの…海藻類(海苔、ワカメ) など
ワンポイントアドバイス:体を温めすぎる習慣はNG
このタイプの人は、ホットヨガや岩盤浴などの高温多湿の環境で長時間過ごすことや、半身浴のやりすぎなどは不向き。一見体に良さそうですが、ますますうるおいが不足してしまいます。また、お酒の飲み過ぎ、辛いものや脂っこいものの食べすぎも熱を生みますので注意しましょう。
おすすめのツボ:「照海(しょうかい)」
照海(しょうかい):くるぶしの内側、出っ張った骨の真下のくぼみ。
押し方:足首をつかむようにして、親指の腹で押します。
「消化不良タイプ」に効果的な対策は?
食養生:「消化不良タイプ」は消化を助ける食べ物を
「消化不良タイプ」さんは、夕飯の時間に気をつける他、以下のような消化を助ける食べ物を摂り、胃腸を労わりましょう。食べすぎには注意を。
消化を助ける食べ物…大根、トウモロコシ、キャベツ、長芋、パイナップル、りんご、粟(あわ)、山査子(さんざし) など
ワンポイントアドバイス:夜遅い時間は軽い食事に
消化不良が眠りを妨げているこのタイプは、まず夜遅い時間にがっつり食べないこと。どうしても夕飯が遅くなりそうなときは、夕方頃におにぎりなどの炭水化物を摂り、家に帰ったらスープや味噌汁などあっさり味の軽めの食事を。胃腸が弱っていますので、腹八分目を心がけましょう。
おすすめのツボ:「内庭(ないてい)」
内庭(ないてい):足の人差し指と中指の間。水かきの部分の赤い皮膚と白い皮膚の境目。
押し方:ツボ自体、押しにくい場所にあるので、ペン先や爪楊枝などでチクチクと刺激しましょう。
全タイプ共通:「不眠」に効果的なツボ
次からは、不眠対策に効果的なツボを3つ紹介します。ふだんからツボ押しを習慣にして、不眠改善を目指しましょう。
不眠対策におすすめのツボ:「失眠(しつみん)」
失眠(しつみん):足の裏にあり、かかとの真ん中のやや凹んだ場所。
押し方:足を持ち、反対側の手をグーにしてツボ周辺をイタ気持ちいい程度の強さでたたきます。
不眠対策におすすめのツボ:「安眠(あんみん)」
安眠(あんみん):耳の後ろの出っ張った骨の下にある、くぼみ部分。そこから指1本分下の場所。
押し方:両手で頭を包み込むようにして、親指をツボに当て、イタ気持ちいい程度に押します。
不眠対策におすすめのツボ:「神門(しんもん)」
神門(しんもん):手首の内側、折れ曲がるシワの線上にあり、小指側にあるすじの親指寄りが神門。
押し方:親指を神門にあて、残りの指で手首をつかみます。イタ気持ちいい程度の強さで10回程度押します。両手にあるので、どちらも刺激しましょう。
今月の養生ポイント:「寝なくちゃ!」から心身を解放しよう
寝つきが悪い夜は、「もうこんな時間だ…」「一睡もできず朝を迎えるのでは…」と、とにかく布団の中で焦りますよね。寝よう、寝ようと思うと、ますます気持ちが高ぶり、スムーズに入眠できません。
眠れずに焦っているときほど、いったん布団から出て、睡眠から意識をずらすことをおすすめします。寝室ではなくリビングなどで好きなことをして過ごし、気分転換ができたほうが自然と眠くなるでしょう。「寝なくちゃ!」という呪縛から心と体を解放してあげてください。眠りのお悩みは1日で解消することは難しいので、ご紹介したような養生を続けて、少しずつ不眠体質を改善していきましょう。
イラスト/植松しんこ
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