薬剤師が解説|自律神経の乱れに効果的な漢方「半夏厚朴湯」とは?
「イライラして喉のどが詰まるような感覚がする」「疲れているのに眠れない」「だるさがとれない」などで悩んでいませんか? こうした症状は、自律神経の乱れによるもの。効果が期待される「半夏厚朴湯」などの漢方薬や、セルフケア方法を紹介します。
目次
自律神経の乱れにおすすめの「半夏厚朴湯」とは?
自律神経の乱れによる症状は、生活習慣や食事などとも密接に関わるため、改善が難しい場合も少なくありません。今回は、自律神経の乱れによく使われる漢方薬のひとつ、「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」について紹介します。
自律神経の乱れによる症状とは?
そもそも自律神経とは、交感神経と副交感神経の2種類があります。血圧や体温を一定に保ち、体に必要なホルモンが分泌されるよう調整するなど、生きるためのあらゆる機能をつかさどる神経です。
交感神経は、体の興奮状態を維持する神経で、何か活動をするときに働くものです。副交感神経は、体をリラックス状態にするための神経です。
通常は、この2つの自律神経が正しく働いて体調を維持していますが、体に精神や環境などによるストレスがかかり続けると、交感神経と副交感神経のバランスが悪くなります。自律神経のバランスが崩れ、それによりさまざまな症状が現れた状態が、「自律神経失調症」です。
交感神経は、体を興奮状態に維持する神経です。交感神経が強く働いている間は、胃腸の活動は抑えられ、血圧が上がるなど、活動に集中できるように調整されます。
そして、交感神経に替わって副交感神経が優位にならないと、うまくリラックス状態に切り替わることができません。すると、眠れなくなる、動悸がする、汗が出る、胃の動きが悪くなる、便秘などの症状があらわれます。
半夏厚朴湯はストレスによる「気」の滞りを改善
東洋医学では、体の状態を「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の要素のバランスで表現します。自律神経が乱れると、「気」の巡りに異常が生じます。「気」というのは、体を動かす目に見えないエネルギー のようなもの。「血」は血液や栄養分を指します。「水」は、体に含まれる血液以外の水分です。
「気」が滞ると気分が落ち込みやすくなり、「気滞(きたい)」と呼ばれる状態になります。喉がつかえる・飲み込みにくいような症状も、気の滞りが原因です。
「気」の量が少なくなってしまうことを「気虚(ききょ)」といい、だるさや気力のなさに繋がります。「気」の乱れや逆流は「気逆(きぎゃく)」と呼ばれ、「気」が一気に頭に上ってくる状態。頭痛やめまい、動悸などが現れます。
「気」の滞り・不足・逆流は、どれかひとつだけが当てはまる場合もあれば、混じり合っている場合もあります。
半夏厚朴湯は気分が落ち込みやすい方におすすめ
ストレスを感じやすい、気持ちが落ち込みやすいなど、気が滞る「気滞」の体質の方には、「半夏厚朴湯」という漢方薬がおすすめです。「気」の流れをスムーズにする働きが期待されます。
以下のような症状がある方は、半夏厚朴湯の服用を考えてみてください。
- 喉がつかえる感覚
- 食欲がない
- 胸や腹部の張り
- 便秘や下痢
- のぼせ
- 生理不順 ……など
半夏厚朴湯は、半夏(はんげ)・茯苓(ぶくりょう)・厚朴(こうぼく)・蘇葉(そよう)・生姜(しょうきょう)の5つの生薬からなる漢方薬です。中でも、半夏には「気」の巡りを整える効果、厚朴には気分を落ち着かせたり筋肉の緊張をほぐしたりする効果があります。
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自律神経の乱れに効果的な漢方を紹介
「半夏厚朴湯」以外に、自律神経の乱れに効果的な漢方を3つ紹介します。気滞以外の体質にもおすすめの漢方薬です。
生理前に気持ちの波が大きい方は「加味逍遙散」
生理前になると次のような症状の波が大きくなってしまう方は、「加味逍遙散(かみしょうようさん)」がおすすめです。特に、虚弱体質で冷えのある方に効果が出やすいといわれています。
- 気持ちの落ち込み
- 不安
- イライラ
- 涙が出てくる ……など
PMS(月経前症候群)のときは、「血」が減り「気」が余ることでバランスが悪くなります。その余った「気」が体にこもり、熱に変わってイライラしてしまうと考えられています。「加味逍遙散」は、婦人科でよく使われる漢方薬のひとつです。
「気」のめぐりを改善して熱を冷まし、「血」を補うことでPMSの症状をサポートします。
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動悸や不眠のある方は「柴胡加竜骨牡蛎湯」
神経が過敏になっている「気逆」で不眠のある方には、「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」がよいでしょう。胃腸に負担になりやすい生薬が含まれるため、虚弱体質な方には向きません。以下のような症状によく効くと報告されています。
- 胸がつまるような感覚
- 動悸、頻脈
- めまい
- 肩こり
- 気分の落ち込み
- 不眠 ……など
「柴胡加竜骨牡蛎湯」は、「気」の巡りが悪くなることで体に熱がこもるのを改善する漢方薬です。同様の症状に悩んでいる方で、体力がない場合には「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」の方が体質に合うでしょう。成分の「桂皮(けいひ)」が、「気」を補い、体を温めてくれます。
イライラ感が強い方は「抑肝散」
気分が落ち込むというよりもイライラ感の方が強いという方には、「抑肝散(よくかんさん)」がおすすめです。子どもから高齢者まで幅広く使われている漢方薬のひとつで、神経の高ぶりを抑えてくれます。ふつう〜やや疲れやすい方に効果が出やすい漢方薬です。
「気逆」や「血虚」を改善するという点は「加味逍遙散」と似ていますが、「抑肝散」は冷えのある方にはあまり向きません。
かなり体力がない場合や、自律神経の乱れが長期に及んでいる場合には、抑肝散に生薬を2種類加えた「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」の方が効果的な場合があります。
漢方薬を飲むときの注意事項は?
「漢方薬は自然のものだから安心」と考えている方もいますが、漢方薬も薬です。正しい方法で使わなくては効果が出ませんし、薬である以上は副作用が出ることもあります。
自分の体質に合うものを選ぶ
漢方薬を使うときは、自分の体質に合うものを飲むこと。
東洋医学では、「気・血・水」の3つのバランスで体質をあらわし、この体質のことを「証(しょう)」と呼びます。これまでにお伝えしてきた「気滞」「血虚」などは、「証」のひとつです。
市販されている漢方薬の説明書には、必ず「冷えのある・なし」「体力のある・なし」など、合う体質について言葉で説明されています。漢方薬を飲む前には、しっかり確認することが大切です。
漢方を食前に飲むのには意味がある
漢方薬の多くは「食前(食事の30分ほど前)」に飲むようにと指示されていますが、「飲み忘れてしまうし、他の薬と同じく食後でいいだろう」と思っていませんでしたか?
実は、食前に飲むのには意味があるのです。
生薬は、ほとんどが「生薬の成分」と「糖」がくっついた状態になっています。体内に入った後、腸内細菌に糖を食べてもらうことで、はじめて生薬の効果が発揮されます。もし食後に漢方薬を飲むと、腸内細菌は食事から糖を摂ったあと。生薬の成分にくっついた糖を食べるまでに時間がかかるため、すぐに効果が出なくなってしまうわけです。
また、食後に飲むことで副作用が強く出てしまう漢方薬もあります。
自分が今から飲もうとしている漢方薬が、食前なのか、食後なのかはきちんと守るようにしましょう。
もし、食前の漢方薬を飲み忘れてしまったときは、1回分を飛ばしてください。だからと言って、次の服用時に2回分を一度に飲んではいけません。
漢方薬は効くまでに時間がかかる?
漢方薬はすぐに効かないというイメージをお持ちの方もいるかもしれません。東洋医学は、症状そのものではなく体質にアプローチし、根本から改善していくという考え方に基づいているため、効くまでにある程度の時間は要します。
具体的には、漢方薬の効果を見極めるまで、だいたい1〜2週間は内服を続けましょう。数日飲んで効果が実感できなくても、焦らずに服用を続けてみてください。
1〜2週間経ってもあまり効果を感じられない場合は、体質や症状に合っていない可能性があります。医師などの専門家からアドバイスを受け、別の漢方薬を試すのがよいでしょう。
しかし、すべての漢方薬に即効性がないわけではありません。今回紹介した中では、「抑肝散」は即効性がある漢方薬です。風邪に使われる「葛根湯(かっこんとう)」や、足のつりに使われる「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」なども即効性があります。
イライラや不安のセルフケア方法は?
イライラや不安など、自律神経の乱れによる症状を改善するために、自分でもできるセルフケアを紹介します。漢方薬の他にも、まずは日々の生活に取り入れてみませんか。
不眠には「ぬるめのお湯で入浴」
不眠で悩んでいるなら、ぬるめのお湯で入浴するのがおすすめです。
38〜40度ほどのお湯に浸かることで、副交感神経が優位になります。42度など、高温での入浴が好きだという方もいるかもしれませんが、あまり温度が高すぎると、就寝前に交感神経が高ぶってしまうため、不眠対策としては逆効果です。
ぬるめのお湯に15分程度浸かることで体温が少し上がり、その後1時間くらいかけて入眠に最適な体温へと下がっていきます。深く眠るためには、入眠するときに少し体温が低くなることが理想なのです。
また、手足などの末端が他の部位より冷えていると眠りにくくなります。入浴するほどの時間がないときは、洗面器や洗面台にお湯をはって手先を温める「手浴」もおすすめです。神経が高ぶっている時におこなうと、副交感神経が働くよう切り替えてくれる効果がありますよ。
【手浴のやり方】
(1)洗面台などに、手首まで浸かる量のお湯(38〜42度)をためます。
(2)少し照明を暗くするか、白ではなくオレンジ色の照明だとなおよいです。
(3)イスに座ります。
(4)指先から手首に向かって、マッサージしながら手を温めていきます。指や手首の関節を曲げたり伸ばしたりして緊張をほぐしていきます。好きな香りのアロマオイルや石けんを使うのもよいでしょう。
(5)5〜10分くらいかけてリラックスできたら、しっかりと水気を拭き取ります。水気が残っていると冷えてしまうので気をつけてください。
手浴をすることで、ただ目を閉じて休んでいるよりも、リラックス効果が高まります。
ぐっすり眠りたい方は、試してみませんか。
不眠・気分の落ち込みには「日光を浴びる」
日光を浴びることは、メンタル面にとてもよい影響があることがわかっています。実際、うつ病の治療にも日光浴が使われるほど、手軽にできて効果的な方法なのです。
そうはいっても、日焼けは肌によくないのであまり長い時間強い日光を浴びたくないですよね。日光浴は、くもりの日の日中の明るさ程度で十分だという報告があります(※1)。できれば午前中に、30分程度浴びられるとベストです。
目から光を感じることで、脳内で幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」が作られます。セロトニンがしっかり作られることで、気分を安定させる助けになります。
また、女性は生理の前にホルモンの影響でセロトニンが少なくなってしまうことがわかっています。PMSにお悩みの方は、生理の前だけでも日光浴を取り入れてみるとよいかもしれません。
出勤時に少しだけ長く外を歩くなど、ちょっとした心がけを始めてみてください。
(※1)Thomas M Penders et al. Bright Light Therapy as Augmentation of Pharmacotherapy for Treatment of Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis. Prim Care Conpanion CNS Disord. 2016 Oct 20;18(5).
漢方薬を使いたいと思ったらぜひ専門家へ相談を
漢方薬を使ってみたい、または興味があると思ったら、次のような方法を考えてみてください。
生活習慣などトータルで相談したい方は漢方薬局
漢方薬局をご存じでしょうか?
漢方の知識を豊富にもつ薬剤師が、しっかりと問診をしたうえで個人に合う漢方を選んでくれます。漢方相談を含め、生活習慣や食事など、総合的にアドバイスをもらいたい方におすすめです。
粉や錠剤のタイプを処方してくれる漢方薬局もあれば、本格的な煎じ薬を調合してくれるところもあります。どんなタイプの薬を処方してくれるのかは薬局によって違うので、事前に確認を。基本的に、カウンセリングには時間がかかるため予約が必要な場合があります。
手軽にカウンセリングを受けたい方はオンライン
「なかなか時間が取れないけど、専門家のカウンセリングは受けたい」という方には、オンラインで漢方の処方が受けられるサービスがおすすめです。チャットやビデオ通話で症状の相談を行うことができますよ。
忙しくて店舗に行けない、子どもが小さいからできるだけ家で済ませたいという方にぴったりのサービスです。服用中に不安が出てきた場合には、その都度相談できるサービスを提供しているところも。非対面でも安心して利用できるようになっているのはうれしいですね。
すぐに試したい方はドラッグストアでも
「体質はなんとなくわかったから、すぐに試したい」という方は、ドラッグストアで購入することも可能です。ドラッグストアにも薬剤師や登録販売員がいますので、簡単な相談に乗ってもらうこともできるでしょう。漢方に詳しい専門家が必ずいるとは限らないため、本格的なカウンセリングまでは難しいですが、もっとも手軽な方法です。
体の不調が続く場合には
薬局やドラッグストアなどで相談後、漢方薬を試しても体調がすぐれない場合には、医療機関の受診を検討してください。
まとめ:体質に合わせた漢方薬で自律神経を整えよう
自律神経の乱れによって、イライラや喉がつまる感覚、だるさ、気分の波など、さまざまな症状が現れます。
こうした症状を根本から改善するには、「半夏厚朴湯」などの漢方薬が助けになるでしょう。漢方薬局やオンラインカウンセリングで、体質に合った漢方薬を専門家に選んでもらうことが可能です。
今感じている、自律神経の乱れによるつらい症状が少しでも和らぐよう、紹介したセルフケアも取り入れてみましょう。できることから試してみませんか。
文/中山アユム