痛み、もたれ、食欲不振…。「胃の不調」を和らげる食事・ツボとは?|田中友也さん 季節の養生法
神戸にある漢方相談薬局「CoCo美漢方」田中友也さんが、“季節の養生法”をお届けする連載。今月は「胃の不調」がテーマ。原因別の4タイプやそれぞれに効果的な対策を紹介します。
目次
脾=胃腸は、“気と血”を作る源
みぞおちあたりがキリキリ痛む、ムカムカする、重い感じがするなど、時々あらわれる胃の不調。みなさんはどんなときに感じますか?
東洋医学では、体の臓器全体を「五臓六腑」と表現します。その中でも胃腸は「脾(ひ)」といわれ、人間が生きるために欠かせない臓器の一つです。脾の大きな働きは消化吸収。脾が弱ると、「気=エネルギー」や「血=血液」などが作られなくなり、体のあらゆるバランスが崩れてしまいます。その結果、栄養が巡らなくなる、腸の調子が乱れるなどして、さまざまな体調不良につながります。
また、脾はストレスにもとても敏感な臓器。「ストレスで胃が痛い」という経験をしたことがある人も多いのでは。胃の痛みや不快感があると、ますます気持ちが落ち込みますよね。
「ストレスを感じる→脾=胃腸が弱る→痛みや不快感があらわれる→それがストレスになる→さらに脾=胃腸が弱る…」というように、ストレスによる脾の弱りは悪循環になることも考えられます。
見逃さないで! 胃の不調のサインとは?
痛みや不快感がなくても、気づかないところで実は胃が弱っていたり、疲れきっていたりする可能性があります。
胃の不調のサイン
- ささくれができる
- 口がカサつく、皮がむける
- 口内炎や口角炎ができる
- 食事がおいしくない
- 手足がだるい、重い、動かしにくい
こんな症状は、胃の調子が悪いサインかもしれません。ささくれは、胃腸が弱ることで「血」が不足し、必要な栄養が皮膚に届かなくなって起こると考えられます。また、東洋医学では「胃のトラブルは口に出る」といわれます。口にあらわれるさまざまな不調や変化も、胃からのSOSかもしれません。見逃さないようにしましょう。
原因別「胃の不調」4タイプを解説
胃の不調は、原因によって対策が違います。東洋医学では、原因別に4タイプに分けられます。自分のタイプに合う対策をすることで、不調改善の近道になります。冷え、ストレス、食生活の乱れ…、あなたの胃の不調はどれが原因ですか?
(1)冷えが原因の「痛みタイプ」
キリキリ、シクシクと痛みを感じるのがこのタイプ。原因はずばり体の冷え。気温に合わないような薄着で過ごしていたり、冷えた食べ物、飲み物を摂り過ぎたりして、胃腸の働きが低下。巡りが悪くなることで痛みにつながります。お腹を触ると冷たい、顔色が白い、下痢をしやすい、急にお腹が痛くなるのが「痛みタイプ」の目安。
(2)揚げ物大好きな「胃もたれタイプ」
胃が重い、ムカムカするのが「胃もたれタイプ」。原因の一つは、「痰湿(たんしつ)」。痰はネバネバした汚れ、湿はサラサラした余分な水分をあらわし、「痰湿」とは体の余分な水分や汚れのことを指します。
もう一つの原因となる「食積(しょくせき)」は、食べすぎで消化不良を起こしている状態。揚げ物などの脂っこい食事、味の濃いもの、アルコールなどがやめられない人が、このタイプに当てはまります。
(3)ストレス過多の「お腹の張りタイプ」
ストレスが胃の不調にあらわれるのが「お腹の張りタイプ」。東洋医学で「肝気犯脾(かんきはんひ)」という言葉があり、これはストレス(肝気)が、胃腸(脾)を犯してしまう(犯)という意味。お腹が張る以外に、げっぷやおならが多い、胸やわきが張るといった症状が目安。ストレスが多くなるほど、お腹の張りが強くなります。
(4)胃腸が慢性的に弱った「食欲不振タイプ」
胃腸そのものがもともと弱い人、不摂生が長く続き慢性的に弱り切っているのが「食欲不振タイプ」。食べるとすぐ下痢をする、病気をしやすい、朝起きられない、元気がない、顔が黄色っぽくなる、ベロの色が淡いなどがサイン。脾(胃腸)は“気血”をつくるため、慢性的に弱っていることで常に元気が出ません。
4タイプ別 胃の不調を改善する食養生とアドバイス
胃の不調は、「今日これをやったからすぐに治る」というわけではありません。毎日の食事や生活を少しずつ変えて、脾=胃腸をいたわることで改善します。「よく胃が痛くなる」「胃が弱くて食事が楽しめない」など、慢性的に胃腸のお悩みを抱えている人は、ぜひ試してみてください。胃腸のためには、「〇〇をする」のではなく「〇〇をやめる」習慣も実は大切ですよ。
「痛みタイプ」の食養生:温め食材を摂る
一つ目の「痛みタイプ」さんは、体の冷えが原因。胃腸を温める食材を摂り、体の中から冷え体質を改善しましょう。なるべく冷えた食べ物、飲み物を摂るのも控えてください。
体を温める食べ物…しょうが、ねぎ、にんにく、山椒、シナモン、ナツメグ、紅茶 など
「痛みタイプ」のワンポイントアドバイス:体を冷やさない工夫を
「痛みタイプ」さんは、これ以上冷えが強くならないように、寒い日は薄着をしない、夏は冷房に当たり過ぎないなど体を寒さから守ってください。温かいペットボトルや自分の手をお腹に当てて温めるだけでもOK。
「胃もたれタイプ」の食養生:代謝を良くする食材を摂る
「胃もたれタイプ」さんは、湿=余分な水分が溜まり、消化不良が起きています。水の代謝をスムーズにする食材や、消化を助ける食材を食事に取り入れてみてください。
水の代謝を良くする食材…もやし、はとむぎ、レタス、トウモロコシのひげ茶 など
消化を助ける食材…梅干し、大根、山査子(さんざし) など
「胃もたれタイプ」のワンポイントアドバイス:食べすぎに気をつける
「胃もたれタイプ」さんは、何より暴飲暴食に注意を。脂っこい食事や味の濃い食事、アルコールなどを摂り過ぎず、胃の負担にならない食生活を送りましょう。週1回からでもいいので食事に気をつけ始めると、胃が快調になるはずです。
「お腹の張りタイプ」の食養生:気の巡りを改善する食材を摂る
ストレス過多の「お腹の張り」タイプさんは、気=エネルギーの巡りが悪い“気滞(きたい)”の状態になっています。気の巡りをスムーズにするのが香りのいい食材です。1食に1食材を取り入れてみてください。
気の巡りを良くする食材…レモン、オレンジ、みかんなどの柑橘系食材、香草、レモンティー、ジャスミンティー、お好みのハーブティー など
「お腹の張りタイプ」のワンポイントアドバイス:ストレスを外に出す
4タイプ中、最もストレスに弱い「お腹の張りタイプ」さん。ストレスは小さいうちにこまめに発散を。人と話す、お風呂で歌う、盛り上がる音楽を聴く、泣いたり笑ったり感情を豊かにできる映画を見るなど、体の外へ追い出すような発散方法がおすすめです。ウォーキングなどで体を動かすのもOK。
「食欲不振タイプ」の食養生:胃腸を元気にする食材を摂る
慢性的に調子が悪い「食欲不振タイプ」さんは、胃腸を元気にする、黄色くて甘みのある食材を摂るといいでしょう。胃腸が弱っているので、早食い、ドカ食いはNG。ゆっくりよく噛んで食べてください。
胃腸を元気にする黄色い食材…米、じゅがいも、山芋、にんじん、かぼちゃ、鶏肉 など
「食欲不振タイプ」のワンポイントアドバイス:胃腸を労わる食事を
東洋医学で「肥甘厚味(ひかんこうみ)」という言葉があり、脂っこいもの、甘いもの、味が濃いものをあらわします。これらは食べすぎると胃の不調の原因に。「食欲不振タイプ」さんは、こうした食事を避け、なるべく胃腸をいたわる食事を心がけましょう。
「胃の不調」に効果的なツボ
次からは、胃の不調に効果的なツボを紹介します。日ごろからツボ押しを習慣にすることで胃の不調を感じにくくなるでしょう。全タイプ共通のツボと急性の胃痛に効くツボ、その他タイプ別にご紹介します。
全タイプ共通:胃の不調に効果的なツボ「中脘(ちゅうかん)」
中脘(ちゅうかん):おへそから指幅5本分上の位置。
押し方:人差し指か中指の腹で、力を入れすぎない程度にやさしく押します。
全タイプ共通:胃の不調に効果的なツボ「足三里(あしさんり)」
足三里(あしさんり):ひざのお皿のすぐ下、外側のくぼみに人さし指をおき、指4本をそろえて、小指があたるところ。
押し方:骨の方に押し込むように、親指でグッと力を込めて、イタ気持ちいい強さで押しましょう。
急性の胃痛に効果的なツボ:梁丘(りょうきゅう)
梁丘(りょうきゅう):ひざのお皿の上から指幅3本分あがったところ。太もも前側の中心よりも親指幅1本分、外側の位置。
押し方:太ももをつかむようにして、親指の腹でグーっと押します。
「痛みタイプ」に効果的なツボ:「気海(きかい)」
気海(きかい):おへそから指2本分下の位置。
押し方:やさしくなでるように押したり、温めた手をそっと置くだけでも効果的です。カイロやお灸、ホットのペットボトルなどで温めるのもおすすめ。
「胃もたれタイプ」に効果的なツボ:「太白(たいはく)」
太白(たいはく):足の第一指(親指)の内側で、骨が出っ張っているところのすぐ後ろ。
押し方:足の甲をつかむようにして、手の親指をツボに当て、骨のキワから指先に向かって押し上げます(2~3回)。これを左右どちらも同じように行います。お灸で温めるのもおすすめ。
「お腹の張りタイプ」に効果的なツボ:「太衝(たいしょう)」
太衝(たいしょう):足の甲の親指と人差し指の骨の間を、上に向けて指を滑らせて、指が骨と当たり、止まるところのへこんだ場所。
押し方:親指の腹を当てて、やさしく押して軽く揉むようにしたり、回すようにしたりして押します。
「食欲不振タイプ」に効果的なツボ:「裏内庭(うらないてい)」
裏内庭(うらないてい):足の裏にあるツボ。足の人差し指を内側に折り曲げたときに、指の腹が当たるところ。
押し方:手で足をつかみながら親指の腹でグッと押します。お灸で温めるのもおすすめです。
今月の養生ポイント:胃腸は冷えが苦手な臓器
そもそも胃腸は冷えが苦手です。消化吸収という大切な役割があるにもかかわらず、食べ物や外からの寒さで胃腸が冷えると、働きが低下してしまいます。
胃腸は温めるのが基本。冷やしていいことはありません。朝食に冷蔵庫から取り出したばかりのヨーグルト、サラダ、フルーツ、スムージーなど冷えたものばかり食べていませんか? 一見体に良さそうですが、実は胃腸にとって過酷…。
温かいスープやみそ汁を飲む、サラダは温野菜にする、しょうがやニンニクといった温め食材をプラスするなど、一つでもいいので温かいものを取り入れてください。「今日何食べよう?」と考えるときに、少しだけ胃腸のことを気にかけてあげましょう!
イラスト/植松しんこ
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