考えすぎてしまうのはなぜ?ネガティブ思考を変える考え方と行動
小さいことを気にしてしまう、人から言われた言葉が忘れられない…。必要以上に考えてしまう人は、物事を悲観的に捉える思考のクセがあります。考えすぎてしまう理由と対処法を、薬に頼りすぎない治療に定評がある精神科医の平光源さんが解説します。
目次
考えすぎてしまう理由は?
寝るときに目を閉じると、考え事が浮かんできてなかなか眠れない、答えの出ないことを延々と考えてしまう…。
このように、私たちが物事を考えすぎてしまう根本的な理由には、人間に本来備わっている“防衛本能”が関係しています。人間を含むすべての動物は、危険から身を守るためのセンサーがあり、不安を感じると、このセンサーが作動する仕組みになっています。
野生のシマウマを例に説明すると、シマウマは常にライオンに襲われないように警戒しながら生活しています。たとえライオンの姿が見えなくても、草が揺れる音がしただけで敵を認識して身を守るためのセンサーが作動し、体に変化がおきます。センサーのおかげで異変に気づいて、危険に備えられるため、シマウマは生き残れるのです。
シマウマのように人間も、もともと防衛本能が発達しています。嫌なことがあったときに他のことが考えられなくなってしまうのは、こうした本能により身を守り、必死に生きようとしているからです。
身を守るためのセンサーが作動すると、心や体に次のような不調があらわれます。
- 食欲がなくなる
- 動悸がする
- 怒りっぽくなる
- 肩や首など体中がこる
- 過呼吸がおきる
動悸や過呼吸がおきるのは、酸素を全身の筋肉に循環させて敵から逃げることに集中するため。怒りっぽくなるのは敵と戦う闘志を失わないためです。
これらの不調は病気ではなく、あなたの体が必死で生きようとしている証拠。そのような症状を否定せず、一生懸命生きている自分を許してあげてくださいね。
次から、物事を深刻に考えてしまう心理学的な3つの理由を紹介します。
完ぺき主義で自分を追い込んでいる
考えすぎてしまう一つ目の理由は、完ぺきを求めるあまり、自分を追いつめてしまうからです。
完ぺき主義の人は、何かに失敗すると「がんばったのに失敗するなんて、ダメ人間だ」と自分を責めたり、納得のいく結果が残せないと「こんなのやっていないのと一緒だ!」とイライラしたりします。
何かに挑戦して失敗しても、その過程で学ぶことは多いはず。しかし、努力して得られたことよりも、“失敗したこと”に気が取られて考え事が止まらなくなります。
また、完ぺきを目指すあまり、自分を必要以上に追い込んでしまうことも。
例えば、試験。100点を取るにはかなりの努力が必要です。その過程で「本当に100点が取れるのか」と不安に感じたり、テスト期間中に遊びに行くと罪悪感でいっぱいになる。そして、「私はダメ人間だ」と思いつめる。その結果、目指していた100点が取れないと自分を過剰に責めてしまいます。
このように、完ぺきを求めるあまり息苦しくなり、必要以上に考えすぎてしまうのです。
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自己評価が低く自分を責め続けている
二つ目の理由は、自己評価の低さです。
できなかったことに対して過度に反省したり、誰かに褒められても疑心暗鬼になってしまう人は、自己評価が低いと言えます。自分のことを評価できないと、マイナス面ばかりが気になり、考えすぎてしまいます。
また、「自己評価の高さ」と「不安度の高さ」は反比例しています。自己評価が高いと不安度が低く、反対に自己評価が低いと不安度が高くなります。自己評価と不安度の関係性を、分数を使って説明します。
分子が、ある物事をやり遂げるのに必要な力
分母が、自己評価 をあらわしています。
例えば、能力が同じAさんとBさんがいるとしましょう。Aさんは、自己評価が高く、Bさんは自己評価が高くありません。
AさんとBさんに同じ仕事を任せたとき、自己評価が高いAさんは仕事をこなすのにあまり不安を感じません。それに対して、自己評価が低いBさんは、Aさんと同じ仕事内容を任されていて、やり遂げるのに必要な力も変わらないにもかかわらず、不安度が高くなります。
Aさんのような自己評価が高い人は、失敗しても「1回ミスしたけれど、次はできるだろう」と気持ちを切り替えられるので、自己評価が下がりません。
反対にBさんのように自己評価が低い人は、失敗すると「こんなミスをするなんて私はできない人なんだ」と感じ、自分を責め続けてしまいます。これが、さらに自己評価を下げる原因に。
このように、自己評価が低いと何をするにも不安に駆られて、ネガティブ思考から抜け出せなくなります。
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他人にすぐイライラしてしまう
三つ目の原因は、他人のことで過剰にイライラすることです。
レジの店員の態度にイライラしたり、SNSで他人のキラキラした投稿を見てムカついたり…。
他の人は気にしない何気ないことが鼻について、ストレスを溜めてはいませんか? そのモヤモヤが考え込んでしまう原因に。
怒りっぽい人と穏やかな人とでは、「事実」に対する受け止め方が異なります。
例えば、あなたが人前でおならをして他人に笑われたとします。怒りっぽい人は、「見て見ぬふりをすればいいのに、笑うなんてひどい!」と感じ、反対に穏やかな人は、「恥ずかしかったけれど、笑いになったからいいや」と楽観的に考えます。
「笑われた」という事実は変わりませんが、自分の受け止め方次第で気持ちが変わります。
他人の些細な行動でイライラすると、人とかかわることがつらくなり考えすぎてしまいます。
考えすぎてしまうクセを改善するコツ
考えすぎてしまう理由は、主に三つあることを説明しました。
- 完ぺき主義
- 自己評価が低い
- 他人に対して怒りっぽい
これらは考え方を変えると、次のようにも言い換えられます。
完ぺき主義者は→真面目
自己評価が低い人は→謙虚
怒りっぽい人は→情熱的
見方を変えれば長所になります。自分の性格を見つめるよりも、考え方のクセを変えるように意識して上手く対処しましょう。
完ぺきを求めすぎて疲れないようにするには?
完ぺき主義の人は、悪かったところを顧みるのではなく、自分の長所を次にどう活かすのかに焦点を当てることが大切です。
完ぺきにこだわる人は、できないことに気を取られ、よかったことに対して目を向けようとしません。
反対に、できなかったことを振り返る力には長けています。
できなかったことは反省しつつ、「今できている部分を認めて伸ばそう」という考え方を取り入れてみてください。
例えば、仕事のプレゼンが上手くいかなかったとしましょう。緊張してうまく伝えられなかったという「できなかったこと」よりも、それ以外の「できたこと」に目を向けてみてください。「事前準備はできていたので、資料はよかった。次は、事前に話す練習を重ねると上手くいくかもしれない」と考え方を変えるようにしましょう。
また完ぺき主義の人は、相手の期待に応えようとするあまり、がんばりすぎてしまう傾向があります。その結果、ストレスを抱えて体調を崩したり、仕事量がパンクしてかえって相手に迷惑をかけてしまったりすることも。
真面目でやさしい人ほど頼みを断るのが苦手です。断るときに申し訳ないと感じるのは、相手に自分を重ねて「断られたらイヤだろうな」と配慮してしまうから。自分や相手のためにも、断る自分や休む自分を許すことで、気持ちが軽くなります。
自己評価を高めるには?
他人から認められなくても、自分で自分のことを認められるようになると、気持ちが安定し考え事が減るでしょう。
自己評価を高める練習として、夜寝る前に今日1日のよかったことを頭に思い浮かべてください。1つでもOKです。
よかったことがなかった日は、まずは無理やりにでもいいので「悪かったこと」を「よかったこと」に変えてみてください。
例えば、休みの日なのに1日中寝てしまったとしましょう。それを「一日を無駄にすごした。自分は怠け者だ」ではなく、「疲れが取れてよかった。贅沢な休みのすごし方だ」と捉えてみます。よかったこととして振り返ると、次第に物事のマイナス面だけではなく、プラスの面にも目を向けられるようになります。そうすると、自分自身のマイナスと思っていた部分にもいいところを自然と見いだせるようになるでしょう。
自己評価が高まると例え失敗しても、結果だけではなくプロセスや自分の努力を素直に認められるようになります。次第に物事の捉え方が変わり、不安感が減って考え事をする回数が少なくなります。
他人にイライラしないようにするには?
他人の行動や感情はあなたが簡単に変えられるものではありません。
他人の言動や感情に巻き込まれてイライラしないようにするために、何か問題がおきたら、それは「自分の課題」なのか「他人の課題」なのかをはっきりさせるクセをつけてください。
例えば、人によって態度を変える部下のAさんがいるとしましょう。あなたには横柄な態度なのに、他の人の前ではいい顔をしています。
今回のケースで、誰が一番困るのかを考えると、あなたではなくAさんです。なぜなら人によって態度を変えるので、信頼されなくなり人が離れていくからです。
人によって態度を変えるAさんの行動は、Aさんにしか変えられません。「他人の課題」とわかった時点で、干渉しないことが大切です。
今度は、Aさんに対して放っておくのか、腹を立てるのかが、自分の課題になります。
その課題と向き合って「他人に振り回されない自分」に成長するも良し、「それは腹が立つよね」と自分のその感情を認めてあげるのも良しです。
考えすぎてイライラしてしまったときは、「誰の課題か」を見極めるクセをつけることで、他人に怒りを感じにくくなり、考えすぎを防ぐことができます。
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ネガティブに考えすぎてしまうときにすぐできる対策
ネガティブな気持ちに心が支配されていると、些細なことでも必要以上に考えてしまいます。自分が考えすぎていると気がついたら、まずは行動を変えてみましょう。
次から考えすぎを防ぐ即効性のある方法を3つ紹介します。
心は落ち込んでいても、まずはポジティブな行動を取っていれば心もついてくるようになります。
上を向いてバンザイをする
考えすぎていると気がついたら、まずは上を向いてバンザイを何回か繰り返してみましょう。これを30秒ほど続けてください。
人は誰でも気持ちが塞ぎ込むと、無意識に下を向いてしまいます。心がしんどいときに、下を向くとますます気持ちが沈み悪循環に。これは、体と心がつながっているからです。
逆に、バンザイのように上を向く仕草をすると、気持ちも上向きうつうつとした気持ちを晴らすことができます。
また、バンザイを笑いながらやることでリラックスにつながる「アルファ波」という脳波があらわれます。他にも、幸福感を高めると言われる「エンドルフィン」という脳のホルモンも分泌され、不安な気持ちから解放されます。声を出さずににっこり笑うだけでもOK。十分に効果が得られます。
バンザイをすると、ポジティブな体の動きが心にも影響し、気持ちが安定します。小さいことが気にならなくなり、考え事が減るでしょう。
心の中で「キャンセル」と唱える
考えすぎていると気がついたら、心の中で「キャンセル、キャンセル」と唱え、心を無にしてください。脳に言い聞かせるように何回も繰り返しましょう。
悩みが深いと、沈んだ気持ちを切り替えるのがとても困難になります。「キャンセル」と唱えることで、まずは何も考えない状態にもっていきます。
ネガティブな気持ちがいきなりポジティブになることはありません。これで思考をフラットにしたら、次に紹介する方法で前向きな気持ちに切り替えましょう。
思っていなくても周りに感謝してみる
考えすぎてしまうのは、ネガティブな気持ちに捉われている証拠です。
コインに必ず表と裏があるように、どんな物事にもいい側面と悪い側面があります。悪い側面だけ見ていると、気持ちが落ち込んで考え事が止まらなくなります。
いい側面を見る練習に効果的なのが、「思っていなくてもまずは感謝すること」。嫌いな人に対して心から感謝しなくてもOK。
例えば、仕事であなたが取引先に横柄な態度を取られてイヤな思いをしたとしましょう。帰り道に音楽を聞いていたら、自分のことを歌っているようで励まされた気持ちになり、そのアーティストのファンになりました。
このできごとを「イヤな気持ちになったからこそ、音楽が心に染みたんだ。ありがとう」と、多少無理やりにでも感謝する気持ちを持ってみてください。この習慣を続けることで、イヤなことがあってもいい側面に目を向けられるようになります。
この方法は、本来ならどうしても感謝できない相手にも有効です。
あなたが上司にパワハラされて会社を辞めたとしましょう。上司の行動は決して許されることではありません。ですが、思っていなくてもまずは、感謝の言葉を心の中で唱えてみましょう。この場合、「私はもう我慢するのはやめた。自分が本当にやりたいことだけをやろう。そのきっかけ作ってくれたのは、ある意味上司のおかげだ。ありがたい」と思い込んでみてください。
ここで伝えたいのは「上司に対して心から感謝すべき」ということではありません。多少無理やりにでも感謝をすることで、時間はかかるかもしれませんがつらい経験は無駄ではなかったと思えてきます。ストレスに感じるできごとがあっても、いい側面を見つめ周りに感謝するクセをつけることで、次第に物事がうまく回りだし、今の自分を肯定できるようになります。
悪い側面だけではなく、いい側面も見えはじめると、ネガティブ思考がストップするはずです。
まとめ:考えすぎてしまうときは行動から変えてみよう
考えすぎてつらいと感じたら、まずは頭の中で「キャンセル」と唱えてみる、バンザイをするなどネガティブな気持ちを消し去る行動を取ってみてください。行動を変えたら自然と心も好転するはずです。
それでも考え事が止まらないときは、悪いことだけを考え続けるのではなく無理やりにでもよかったことを見出してみましょう。どんな物事にも必ずいい側面はあります。そこに目を向けることができた人から、心がすーっと軽くなるはず。
考えすぎて、自分のことを追いつめすぎずに、今回紹介した方法で行動や思考のクセを変えてみましょう。
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