だるい、やる気が出ない…心とからだの疲れの不思議を専門家が解説!
春は忙しい! 新年度や新学期が始まり、新しい出来事が多い時期。でも、このところ家にいることが多いから、身体的な疲れは少ないはずなのに、なぜか疲れが溜まっていく感じも。これはどういうことでしょう?
目次
疲れは、細胞や遺伝子の傷が修復不十分な時に出るシグナル
疲れって、なぜ起こるの? 溜まっていくのはどうして?
そこで、長年疲労について研究をしてきた倉恒弘彦さんに、疲れのメカニズムについてお聞きしました。
「まず、日本疲労学会では、“疲労とは、過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた、独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態”と定義しています。確かに『疲れた〜』と思うときには、休みたくなりますよね。しかし、そうなったときでも、人間の体には相反する働きがあります」
たとえば、上司から褒められたりすると、ノルアドレナリンやドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されて、疲労感を伝えるはずの神経系をブロック。そのために疲れを感じないまま働きすぎて、心筋梗塞や脳卒中、過労死などにも。これを“疲労感なき疲労”というのだとか。
「そんなことにならないように、早い段階で疲労の状態を認識しておくことが必要です」
あなたの「お疲れ度」をチェック!
そこであなたのお疲れ度をチェック! 倉恒さん考案の「疲れ度がわかるチェック表」で、思い当たる項目にチェックをしてみましょう。
心の疲れをチェック
からだの疲れをチェック
さて、判定は…?
チェックした部分の数字を足すことで、精神的疲労と肉体的疲労の度合いがわかります。“疲労感なき疲労”は起きていませんか?
疲れは、自律神経系や内分泌系、免疫系にもひずみを起こす
からだにいいこと世代は、家庭でも社会でも責任のある年齢。その責任感によってノルアドレナリンやドーパミンのような疲労感を伝えにくくする神経伝達物質が分泌され、知らず知らずに疲れを溜めてしまうこともあるそうです。
「私たちは、日々活動することで、細胞を構成するたんぱく質や、遺伝子を傷つけています。それらの傷は、良質な睡眠などで修復して元に戻すのですが、傷をちゃんと修復できなかったりすると、たんぱく質や遺伝子たちが、『修復が不十分だよ』『クラッシュしちゃうよ』と伝えてくる。そのシグナルが疲れなのです」と、倉恒さん。
そのシグナルは、自律神経にも影響を与えているそうです。
「自律神経は、心臓や胃腸などの内臓を動かしたり、汗のかき方や、血管の伸縮などをコントロールしていますが、疲れが蓄積されていくと、この働きにもひずみが起こります」
下痢や便秘を繰り返したり、動悸が起こったり、異常に汗をかいたり、立ちくらみが起こったり。これらの症状も自律神経のひずみによって起こることがあるそうです。
また、それによってホルモンが作られる内分泌系に影響が出ることも。副腎皮質ホルモンの不足から疲労感や倦怠感を感じたり、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで下痢が起きたり、反対に少なく分泌されることで腸の働きを鈍らせたりします。
さらに、その影響は免疫組織にも。
「免疫組織の7割ほどが腸にあるといわれ、腸の状態が免疫組織の働きにも影響します。また、脳腸相関(のうちょうそうかん)といわれるように、腸の元気度は脳の元気度に関連があることもわかっています」
“ホメオスタシス”という言葉があります。身体の中の状態を一定に保って健康を維持しようとする働きのことですが、それには自律神経系、内分泌系、免疫系がバランスを取り合っていることが大事です。
ホメオスタシス
この3つのバランスが乱れることによって、通常ならどうということもないストレスでも、どんどん蓄積され、疲れになっていくことも。
「疲れていると、精神的活動能力も、身体的活動能力も低下してきます。うっかり忘れることが増えたり、よく物にぶつかったり、歩いたり立ち上がったりする動作が遅くなったりしたら、注意してください」
普段の生活を観察することで、自分はもちろん、親しい人や家族などの疲労に気付くことができますね。
イラスト/内藤しなこ
(からだにいいこと2022年6月号より)