亜鉛不足をセルフチェック!味覚障害につながる原因とおすすめの食事
最近、食べ物の味がおいしく感じられない、体が疲れやすい気がする…。そんな人は亜鉛不足かもしれません。亜鉛不足で起こる症状やチェック法、改善するための食生活について、管理栄養士が解説します。
亜鉛不足をチェック! こんな症状はありませんか?
炭水化物や脂質、タンパク質などの5大栄養素と違い、「亜鉛」を意識して摂っている方は少ないのではないでしょうか。
そもそも私たちは、体内で亜鉛を作ることができません。そのため、食べ物からしっかり摂らないと不足してしまいます。亜鉛不足になると、次のような症状があらわれます。
普段、誰でも感じるような症状でもあり、気づかずに見過ごしてしまうことも。亜鉛不足による症状を改善するための第一歩と思って、自分自身の体を振り返ってみましょう。
【亜鉛不足 6つのチェックリスト】
□味を感じにくい
□風邪をひきやすい
□傷が治りにくい
□疲れやすく元気が出ない
□抜け毛が気になる
□性機能が減退している
上記のチェック項目が1個以上当てはまり、他の病気の症状と違うと考えられる場合は、亜鉛不足かもしれません。
参考:「亜鉛欠乏症の診療指針2018」より(pdfファイル)
(1) 味を感じにくい
食事をしていて「味を感じにくい」ということが続いたら、亜鉛不足による味覚障害かもしれません。食べ物の味が分からなくなったり、鈍くなったりすることを味覚障害といいます。
また、特定の味が分からなかったり、何も食べていないのに変な味がすることもあります。味覚障害の原因はさまざまですが、血液中の亜鉛不足が関係していることがわかっています。
舌の表面で味を感じる「味蕾(みらい)」という器官は、細胞の生まれ変わりが活発なため、亜鉛不足になると新陳代謝が悪くなり、味覚が狂ってしまいます。主な原因は加齢といわれていますが、 最近では若い女性に多いという報告もあります。
(2) 風邪をひきやすい
亜鉛は体の中で免疫機能や神経系の働きを保つためにも必要な栄養素です。亜鉛が不足すると免疫力が低下して風邪をひきやすくなるなど、感染症に対する抵抗力が落ちることがわかっています。
そのため、風邪をひきやすくなることがあります。これまでは元気だったのに、風邪で体調を崩しやすくなった方は、亜鉛不足を疑ってみるのもよいかもしれません。
(3) 傷が治りにくい
亜鉛は、細胞の生まれ変わりをサポートする役割もあります。亜鉛不足になると、皮膚炎や口内炎を起こしたり、傷の治りが遅くなったりします。
また、亜鉛はタンパク質の合成や遺伝子情報を伝えるDNAの合成にも必要となり、体の成長には欠かせないミネラルです。妊娠中の女性が亜鉛不足になると、胎児の成長が遅れる、寝たきりの高齢者だと床ずれができやすいといったこともわかっています。
(4) 疲れやすく元気が出ない
元気が出ない、疲れやすいといった症状が、亜鉛不足からきていることもあります。詳しいメカニズムはわかっていませんが、亜鉛不足が原因で、消化液の分泌が減ったり、消化管の働きが低下したりすることから、食欲が落ちることがあります。
食べる量が減るとさらに亜鉛が不足して、疲れやすく元気が出なくなるといった負のスパイラルに。食欲不振が続くようなら、放置せずに一度医療機関を受診するようにしましょう。
(5) 抜け毛が気になる
意外かもしれませんが、抜け毛も亜鉛不足が関係しています。皮膚や毛髪には、体内の亜鉛の約8%が存在しています。皮膚の中でも、表面の表皮に集中しているため、亜鉛不足になると皮膚炎や口内炎が見られたり、抜け毛が増えたりすることがあります。
亜鉛不足による抜け毛は、後頭部から始まり、次第に頭部全体に広がったり、円形脱毛症になることも。円形脱毛症の症例のうち34%では血液中の亜鉛が少なかったことが報告されています。
参考:亜鉛欠乏症の診療指針2018 より(pdfファイル)
(6)性機能が減退している
性機能が減退する理由のひとつとしても亜鉛不足が考えられます。亜鉛が不足すると、成人男性は精子の減少やインポテンツの要因に、女性では妊娠しにくくなるともいわれています。
また、大人だけでなく子どもも亜鉛不足には注意が必要です。子どもでも、性機能の発育不全などが起こるため、世代問わず十分な亜鉛を摂ることが大切です。
亜鉛とはどんな栄養素?
ここまでご紹介してきた「亜鉛」とは、鉄に次いで体内で2番目に多い微量ミネラルです(※1)。味覚を正常に保ったり、細胞の生まれ変わりを助けたりする働きがあります。血液や皮膚に多く、骨や筋肉、腎臓、肝臓にも存在します。 男性の場合は、前立腺に特に多いと報告されています。
チェックリストで「亜鉛不足かも」と感じても、どのくらい摂ればいいか分からない方も多いでしょう。次から、1日の亜鉛の必要量と、反対に摂りすぎるとどうなるのかを解説します。
(※1)微量ミネラルとは、体に必要なミネラル16種類の中で、必要量の少ないものをいいます。微量ミネラルは、鉄・亜鉛・銅・マンガン・ヨウ素・セレン・クロム・モリブデン・コバルトの9種類です。
1日に必要な亜鉛の量は?
「日本人の食事摂取基準2020年版」では、亜鉛の1日の推奨量は成人男性で11mg、成人女性で8mgと定められています。
日本人でのデータが乏しかったため、アメリカ・カナダの食事摂取基準を参考にし、主にイギリスとアメリカの成人男性の研究結果から算出して定められました。
日本人は必要量が足りていませんが、反対に摂りすぎるのも良くありません。食事から摂る場合には、亜鉛の過剰摂取の害は報告されていません。しかし、サプリメントなどで多量の亜鉛を継続して摂る場合は注意が必要です。
鉄の吸収が妨げられて貧血になったり、めまいや吐き気などの急性中毒を引き起こすことも。亜鉛を必要以上に摂ると健康被害などが起こる量は、次のように定められています(※2)。
18~29歳男性:40mg
30~64歳男性:45 mg
65歳〜男性:40 mg
18~74歳女性:35 mg
75歳以上女性:30 mg
(※2)『日本人の食事摂取基準2020年版』(第一出版)より
日本人は亜鉛が不足している
日本人は亜鉛が不足していることがわかっています。2019 (令和元) 年の「国民健康・栄養調査」では、1日の亜鉛の摂取は、男性は平均9.2 mg、女性は平均7.7 mgという結果が出ました(※3)。
ご説明したように、健康を維持するためには、亜鉛の1日の推奨量は成人男性で11mg、成人女性で8mgと定められています。
亜鉛は、タンパク質の合成や細胞の新陳代謝にかかわる酵素の成分になります。亜鉛が不足すると、新陳代謝が上手に行われなくなり、体の不調を起こしてしまいます。「以前より味が感じにくくなった」「この不調、亜鉛不足かも?」と思ったら、次に紹介する項目で生活習慣を振りかえってみてください。
(※3)厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査結果の概要」 より(pdfファイル)
亜鉛不足になる原因は? 生活習慣をチェック!
1日3食バランスの良い食事をしていれば、亜鉛不足になることはほとんどありません。食事が偏っている、食事量そのものが少ない、亜鉛の吸収を妨げるアルコールの摂取量が多いなどの食習慣が続くと、亜鉛不足になりやすくなります。次から亜鉛不足に陥りやすい代表的な例を、5つ紹介します。
(1)極端なダイエットをしている
亜鉛はカキをはじめとする魚介類や肉類、チーズ、大豆製品など幅広い食品に含まれています。比較的動物性の食品に多く含まれているため、極端なダイエットで肉や魚介類を食べずに野菜ばかり食べている人は不足しがちです。
「太るから」「コレステロールが気になるから」といった理由で、動物性の食品を摂らない生活を続けていませんか? 亜鉛をしっかり摂りながら健康的にダイエットをするためにも、動物性の食品も適量摂りましょう。
(2)加工食品を多く摂っている
インスタントやレトルト食品、ハムやソーセージ、魚肉ソーセージなどの加工品、スナック菓子などを日常的にたくさん食べる人は、亜鉛不足になりがちです。
加工食品に使われる食品添加物の中には、亜鉛の吸収を妨げるものが使われていることがあります。亜鉛不足の人は、加工食品はほどほどに。できるだけ食材を買って来て作った料理を食べましょう。
(3)アルコールをよく飲む
アルコールも亜鉛の吸収を妨げることがわかっています。日常的にアルコールを適量以上飲む人で、ご紹介したような亜鉛不足の症状がある場合は、休肝日をつくる、ノンアルコールのドリンクにするなどして、控えめに楽しみましょう。
アルコールの1日の適量は、ビールだと中ビン1本(500ml)、日本酒だと1合、缶チューハイ(7%)だと350mL缶1本、ウィスキーダブルは1杯です(※4)。
(※4)厚生労働省e-ヘルスネット「飲酒のガイドライン」より
(4)激しい運動を日常的に行っている
毎日長距離を走るといった激しいスポーツを長く続けていると、亜鉛不足が見られることがあります。長く競技生活を続けているアスリートでは鉄剤が効かない貧血が見られ、亜鉛欠乏による貧血があると報告されています。
実業団の男子陸上競技者の約15%、女子の約30%に亜鉛欠乏に伴う貧血があるというデータも。激しい運動をしている人は、亜鉛を多く含む食品を摂るなどして不足に注意しましょう。
参考:亜鉛欠乏症の診療指針2018 より(pdfファイル)
(5) 薬を服用している
薬の使用によって亜鉛の吸収が妨げられ、欠乏症を起こすこともあります。長い間、特定の薬を服用していると、副作用で味覚障害を起こすものがあることが報告されています。
金属を結合させる「キレート作用」を持つ薬(※5)は、服用すると体内の亜鉛とくっついて尿中に排出され、その結果、亜鉛不足をきたすことに。薬を服用している人で味覚障害などの症状がある場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。
(※5)【キレート作用のある薬一例】
D-ペニシラミン(関節リウマチ)、L-ドーパ(パーキンソン病)、炭酸リチウム(うつ病)、酢酸フルラゼパン(不眠、神経症)など。亜鉛欠乏症の診療指針2018 より(pdfファイル)
亜鉛不足を改善するには?
亜鉛不足かどうかは、最初に紹介した気になる症状を医師が問診で確認し、血液検査をして診断します。 不足している場合、亜鉛を多く含む食品を積極的に摂りましょう。食事からでは亜鉛の摂取が不十分な場合は、亜鉛剤による治療があります。
亜鉛を豊富に含む食べ物を摂る
亜鉛不足を改善するためには、亜鉛を多く含む食べ物を摂りましょう。亜鉛は、肉や魚介類、大豆などタンパク質を多く含む食品に含まれます。特に多いのは、カキやレバー、牛肉、ナッツ類など。亜鉛を豊富に含む食品をまとめましたので、参考にしてみてください(※6)。
食品名 | 1食分の目安量(g) | 亜鉛含有量(mg) |
カキ(養殖生) | 5粒(60g) | 8.7mg |
豚レバー(生) | 70g | 4.8mg |
牛肩ロース肉(赤身) | 角切り3切れ(90g) | 5.8mg |
牛もも肉(赤身) | うす切り3枚(90g) | 4.1mg |
ラム肩肉(脂身つき) | 角切り3切れ(90g) | 4.5mg |
ずわいがに(水煮缶詰) | 1/2缶(60g) | 2.8mg |
ほたて貝(生) | 3個(60g) | 1.6mg |
納豆(糸引き) | 1パック(40g) | 0.8mg |
アーモンド(炒り無塩) | 10粒(15g) | 0.6mg |
プロセスチーズ | 1切れ(20g) | 0.6mg |
亜鉛を豊富に含む食品を食事に取り入れながら、バランスよく食べるようにしましょう。
また、亜鉛の吸収を促進する栄養素に、肉類や魚類に多く含まれる動物性タンパク質(ヒスチジン・グルタミン酸などのアミノ酸)、クエン酸やビタミンCがあります。
亜鉛の吸収は、一緒に摂る食品によって左右されます。効率的に亜鉛を摂るためにも、ビタミンCを多く含む野菜や果物を一緒に摂ることをおすすめします。
亜鉛の吸収を妨げる食べ物を控える
亜鉛は一緒に摂る食品で吸収が妨げられることがあります。玄米や小麦ふすまなどに多く含まれる「フィチン酸」は亜鉛の吸収を妨げます。
そのほかに、乳製品に含まれるカルシウムや食物繊維、コーヒー、オレンジジュースなども亜鉛の吸収を妨げることがわかっています。亜鉛不足の方は、亜鉛の吸収を妨げる食べ物はなるべく控えるようにしましょう。
ただしこれらだけを控えるのではなく、加工食品を控えたり、アルコール量を見直したりすることも大切。亜鉛を豊富に含む食品をメニューに組み込んで、バランスの良い食生活を心がけてください。
医療機関を受診する
亜鉛不足かどうかは、血液検査で亜鉛の数値が低いこと、それに加えて下記のような症状がある場合に医師によって診断されます。
□味を感じにくい
□風邪をひきやすい
□傷が治りにくい
□疲れやすく元気が出ない
□抜け毛が気になる
□性機能が減退している
これらのチェック項目に加え、血液中の亜鉛値が60μg/dl未満だと、「亜鉛欠乏症」と診断されます(※7)。
亜鉛不足の代表的な症状「味覚障害」は治療に数カ月かかることもあります。自覚症状を感じたらできるだけ早く医療機関を訪れましょう。
(※7)『栄養指導にいかす検査値の読み取りポイント』(菅野義彦監修/メディカ出版)
まとめ:亜鉛不足を感じたら生活習慣をチェックして見直しを
亜鉛不足のセルフチェック法と、味覚障害につながる原因やおすすめの食べ物について解説しました。亜鉛は体を構成する微量ミネラルの中では、鉄についで2番目に多く、細胞の生まれ変わりをサポートしています。
肉類や魚介類などの動物性食品に多く含まれるので、植物性食品に偏らないように注意を。毎日バランスのよい食事を心がければ、不足する心配はありません。
それでも味の感じ方がいつもと違う、疲れやすく風邪をひきやすくなったなど、亜鉛不足が心配になったら、生活習慣の見直しと共に医療機関で相談を。亜鉛を味方にして元気な毎日を過ごしましょう。