テクノロジーとケアで命を守る「乳がん検診」|私のためのフェムテック(6)
乳房は女性の象徴でもありますが、乳がんに罹患すると変形や喪失のリスクにさらされてしまい、時には命に危険が迫ることも。乳がん検診について知ることも、女性が自分らしく生きるためのフェムテックのひとつです。
目次
2つの検診で初期のがんも見落とさず発見
日本人女性のうち、9人に1人は経験するといわれている乳がん。乳腺専門医の土井卓子さんは、次のように解説します。
「乳がんの多くは、がんのなかでも比較的進行が遅いタイプです。薬物治療法なども進歩しており、早期に発見して治療を受ければ治る患者さんが多いです」
早期発見・治療を実現するために大切なのが乳がん検診です。乳がん検診には乳腺専用のレントゲン「マンモグラフィ」と、乳房に超音波を当てて内部からの反射波を画像化する「超音波(エコー)検査」があり、2つの検査を併用すると乳房の状態をより的確に把握することができます。
「検診に使用する機械は年々進化しており、がんをより見つけやすい検査機器も登場しています。かつてのマンモグラフィ検査では痛い思いをした人もいると思いますが、現在はマンモグラフィの講習を受けて専門の資格を取得した技師が撮影をしています。そのため、検査での体への負担はかなり軽減しています」
“さわるフェムケア”で女性の命を守る
乳がんは、“自己検診”で発見できる可能性がある唯一のがんです。土井さんが実際に患者さんに指導している自己触診のやり方は、次の通りです。
「人さし指、中指、薬指の3本の指の腹で乳房を押し流すように触ります。触るほうの腕を上げて頭の後ろに置き、まずは肋骨に対して平行に、次に垂直に触りましょう。この時、乳房をつまんでしまうとしこりに似た感触になるので、つままないように気をつけてください。指が滑りやすいよう、入浴時に石けんをつけて行うのがおすすめです」
自己触診をするためには、あらかじめしこりの感触を知っておくことも大切です。
「握りこぶしの関節部分が、しこり本来の硬さです。ただし、乳房の場合はその上に脂肪や皮膚があります。こぶしの上にたたんだタオルを置き、その上から触ったしこりの感触が探すべきターゲットです」
入浴時に毎日、自己検診をしていると、生理の前と後では硬さが変わっているなど、自分の乳房の変化に気づくことができます。自分の乳房の状態をよく知っておくことが、早期受診につながるのです。
治療をはじめ、“かかったあと”のケアも進歩中
医療の世界は日進月歩の勢いで進歩しています。乳がんにおいては薬物治療が進んでおり、海外では治療のみならず再発予防の適用になっている薬もあるそうです。
「ただし、一口に乳がんといっても、乳がんの種類や状態は患者さんによってさまざま。受けられる治療も異なります。自分の乳がんがどのようなもので、どのような治療が最適なのか、担当医とよく相談して決めていただきたいと思っています」
治療と同じく進化しているのが、がん治療による外見の変化に対して医療者が行う”アピアランスケア”です。
「たとえば、ひと昔前までは前開きの下着は専門のメーカーさんのものしかなかったのですが、今は身近なメーカーさんでの取り扱いが増えており、かわいくて安価なものが充実しています。また、つけたまま温泉に入れるものやオーダーメイド品など、着脱式の人工乳房も多数開発されています」
ウィッグドネーションの広がりによってより自然に使えるウィッグが増えたりなど、髪や肌などの見た目をケアする選択肢も増えてきています。
「私が勤務している湘南記念病院乳がんセンターには、月に何度かソシオエステティシャン(医療や福祉の知識に基づいたエステティックを通してケアを行うエステティシャン)に来てもらい、抗がん剤治療を受ける患者さんへのメイク指導などをしてもらっています。化粧品会社さんが乳がん患者さん向けに化粧品を提供してくれることもありますし、アピアランスケアが確実に普及していることを実感しています」
「私は大丈夫」と思い込まないで
乳がんは、早期に発見して治療をすれば治る患者さんが多い病気です。早期発見のために必要なのは乳がん検診の受診です。
「乳がん検診を受けてもらえれば、早期のうちにがんを見つけることができます。でも、乳がん検診の受診率は全国的に見ても44%~45%程度で横ばい状態。乳がん検診を受けない人も少なくありません」と、土井さんは乳がん検診の現状を語ります。
「乳がんを患っている患者さんの中には、出血があったり匂いがしたりなど、悪化した状態になって初めて病院を受診する人も。早期の段階で病院に来てもらえれば治療の手段もあるのですが、病院に足を運んでもらわない限り、私たち医療者にはどうすることもできないんです」
乳がんという病気を意識した時、「私は大丈夫」、「乳がんになった家族はいないし関係ない」と根拠もなく思い込んでしまうことがあります。
「そうした思い込みを改めてもらい、乳がん検診の受診率を上げていくにはどのような手段を講じればいいのか。これは、乳がんに関する今後の課題のひとつだと考えています。そのための方法として、若い世代に向けた啓発活動にも取り組んでいます」
現在、40歳以上の女性に対しては2年に一度の乳がん検診が推奨されています。自分の命を守るためにも、乳がん検診をきちんと受けるようにしたいものです。
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取材・文/熊谷あづさ イラスト/桃色ポワソン
[ 監修者 ]