筋力の衰えは30代から始まる。今こそ、一生動ける体づくりを┃ホームドクター(10)
普段なかなか知ることができないドクターの素顔に迫る連載の第10回。医学生時代から高齢者の増加を見越し、元気に動ける人を増やしたいと願ってきた田中先生。話題の「ロコモ」についても教えてもらいます。
「からだにいいことホームドクター」とは?
「この健康法は自分に合っているのかな」「どうしてこんな不調が起きるんだろう」など、自分ではわからないけれど病院に行くほどではない“セルフケア以上、診療未満”のお悩みを、各科の名医と一緒に解決していく、健康応援プロジェクトです。
目次
最先端の骨研究のため、大学院進学後は歯学部でも学ぶ
田中栄先生が整形外科医になったきっかけを教えてください
田中先生 小学生のころ、骨肉腫で命を落とす子どもの漫画を読んだのが医学との出会いです。ただ幼かったですし、医学部への進学を決意したのは、中学・高校時代に自然と。医学部で学び始めた当初は精神科志望でしたが、整形外科の黒川高秀先生と出会い、気持ちが変わりました。先生は脚が短い病気の人の脚を伸ばす「脚延長」(きゃくえんちょう)の治療を積極的に行っていて、骨や筋肉、神経、血管を含めて“脚を伸ばす技術”に興味を持ちました。将来、高齢化が進むことは予測できましたし、歩けない・動けないで困る方を治療したいと整形外科を選択。しかし当時は、今以上に骨についてわかっていないことだらけ。骨の基礎研究の必要性を痛感しました。ただ医学部では研究例が少なく、最先端の研究なら歯学部だと。そのため、大学院進学後は昭和大学歯学部の須田立雄先生の下で学んだ時期もあります。
医学の進歩は目覚ましいですが、整形外科の分野で変わってきていることは?
田中先生 骨粗しょう症の治療ですね。私が整形外科医になった35年前は、骨折して初めて治療をしました。今では骨が弱ること自体を問題と捉え、骨折を防ぐために治療が必要と考えます。幸い、骨の研究が進み、副作用が少なく、よく効く薬が登場して治療成績も良好です。ほかには、「安静に」が定説だった腰痛やひざ痛に対して、今は動ける範囲で動くことが推奨されています。動かすことで症状が改善するとわかってきたんです。そのうえ、運動は心拍数を上げて心機能を高め、血管の健康維持にも重要。体を動かさないと筋肉が弱るなど、悪影響は全身に及びます。以前と比べて症状がひどくなってからではなく、再びしっかり動かすことができるように手術を勧めることも。体への負担が少ない手法も増えているので、手術を恐れすぎないでください。
一生歩ける・動ける体のために、今できることは何ですか?
田中先生 「ロコモ」をご存じでしょうか? 筋力低下や関節や脊椎などの病気によって、立ったり、歩いたりといった移動能力が低下した状態が「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」です。まだ動ける30~40代でも、筋力は衰え始めています。ぜひ「ロコモ度チェック」(下記)を行って、足腰が弱っているなら、高齢者は「片脚立ち」や「スクワット」を習慣に。若い方はそれに10分間の運動をプラスする対策を始め、“歩ける・動ける体”を維持してください。
ロコモ度チェック!
自分の身体能力が落ちていないか、「ロコモ度」をチェックしてみましょう。
【立ち上がりテスト】
高さ40cm程度の台に浅く座り、両手を胸の前でクロス。この姿勢から、反動をつけずに片脚で立ち上がれますか? 立ち上がれない人は足腰が弱っている可能性大です(※正式なテストの一部を抜粋しています)。
[出典] 日本整形外科学会 : ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト
ロコモONLINE https://locomo-joa.jp
取材・文/江山 彩 協力/メディコレ (からだにいいこと2022年10月号より)