大腸がんの執刀から見えてきた便秘を見過ごさない重要性┃ホームドクター(13)
大腸専門の外科医として数々の手術を担当するなかで、便秘や下痢、腹痛に苦しむ方の多さを目の当たりにしてきた前田孝文先生。こうした人に寄り添いたいと、「便秘外来」を開設した、前田先生の思いとは。
「からだにいいことホームドクター」とは?
「この健康法は自分に合っているのかな」「どうしてこんな不調が起きるんだろう」など、自分ではわからないけれど病院に行くほどではない“セルフケア以上、診療未満”のお悩みを、各科の名医と一緒に解決していく、健康応援プロジェクトです。
目次
胃腸の不具合は放っておくと思わぬ病に
前田孝文先生が大腸専門の外科医になったきっかけを教えてください。
前田先生 幼心に、体が弱い母親の病を治したいと思っていたことが根底にあります。父親からも「医者は大事な仕事だ」と言われ、中学時代には医師を目指そうと。
医学部に進学した当初は内科志望でしたが、大学4年で経験した留年期間に心境が変化。当時、外科の准教授だった故・沢井清司先生の下でアルバイトをし、多くの外科医の先生とお話する機会を得たことがきっかけです。高度な技術力で患者さんに真摯に向き合う姿に触れ、外科医に対する印象が一変。自らの手を動かして治療できることは実に魅力的で、外科医になろうと心が決まりました。なかでも大腸疾患は手術頻度が高く、それだけ貢献できる機会も多いと思って、大腸外科を志望しました。
外科医として治療にあたる傍ら、「便秘外来」を開設した理由は?
前田先生 大学病院でがん治療の経験を積んだ後、大腸・肛門の専門病院で腹腔鏡手術を数多く担当しました。排便障害や歩行困難で苦しむ直腸脱の患者さんが、術後に元気になる姿を見てやりがいを感じる一方、便秘や下痢、腹痛に苦しむ人の多さを痛感。こうした胃腸の不具合は日々の生きづらさに直するだけでなく、放置すれば思わぬ病になることも。決して、見過ごしてはいけないのです。
そこで、勤務先の病院に千葉県初の「便秘外来」を開設。便秘治療は薬の処方だけでなく、食事や運動など生活習慣の見直し、ストレスやメンタル疾患への対応が必要です。DVなど家庭の悩みを抱える方もいて、医療だけでは解決できないことも。こうした方が適切なサポートを受けられるようにつなぐのも、医師の大事な役割だと思います。
地域の理学療法士や栄養士など、あらゆる専門家と連携して治療の幅を広げるため、2021年に「便秘外来」を併設したクリニックを開院するに至りました。
便秘に悩む女性が日常でできる対策を教えてください。
前田先生 ダイエット目的で食事制限をして、便秘になる女性が多いです。便秘を改善するには、米や根菜類をしっかり食べて、食物繊維を増やすことが欠かせません。また、便秘だからといって市販の便秘薬に頼りすぎるのはいけません。
便秘薬の多くは、腸を刺激してぜん動運動を促す「刺激性下剤」です。スッキリ出る一方、長期間使用すると薬が効きにくくなるだけでなく、薬なしで排便できなくなることも。こうなると治療も困難になります。常用しないで済むように、食習慣の改善と運動習慣をつけるように努めましょう。そして、排便が薬頼りになる前に、医療機関を受診することをおすすめします。
猫もふ生活が癒やしに
4匹の保護猫と家族で暮らす前田先生。「いつもえらそうな猫や気が弱い猫など、兄弟でも性格が違って面白い。気ままな猫たちを見ていると癒やされます」
取材・文/江山 彩 協力/メディコレ (からだにいいこと2023年4月号より)
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