風邪に「葛根湯」がダメな人とは?|漢方専門医の「不調を解決する漢方の話」
「不調を漢方薬で改善したい」と思っても、うまく活用できていない人は多いもの。そこで、北里研究所病院で漢方科部長を務めた専門医・鈴木邦彦先生が、漢方薬と仲良くつきあう方法をお教えします。今回は連載第2回。
目次
ダイエットにいい漢方薬で調子が悪くなるケース
漢方の治療とは、患者さんに「どんな薬を飲んでもらうか」を判断することです。
薬が合うか合わないかは、それぞれの体の状態や体質によるので、Aさんに効いたから、Bさんにも効く、ということにはなりません。
たとえば「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」は、ダイエットにいいとして知られている漢方薬です。これは、体質的に「陽性」で元気のある人に向いている薬。
脂肪燃焼効果があるほか、生薬の「大黄(だいおう)」でお通じがよくなり、ポッコリお腹がスッキリします。
しかし、体質の弱い「陰性」の人が飲むと、下痢になったり、体力が奪われてヘロヘロになり、薬を飲んで逆に体調を悪くする、ということにもなりかねません。
体質を診断して最適の薬を処方する
そのため私たち漢方医は、患者さんの体の状態や体質をさまざまな形で診察します。主に4つの診断法「四診」を使います。
(1)望診(ぼうしん)
舌の状態や顔色、姿勢など、外から見てわかることが診断材料になります。
舌は自分でも見やすいので、チェックしてみてください。たとえば、不調のわかる舌にはこんなものがあります。
●舌の裏側に走る静脈が、太くどす黒い色をしている
↓
血行の悪い「瘀血(おけつ)」の状態。さまざまな不調の原因になる。
●舌の周囲がギザギザしている
↓
むくみで舌がふくれて、歯形がついた状態。体内に水分が過剰だったり、胃腸が弱っている。
(2)聞診(ぶんしん)
声の調子や、咳、お腹のゴロゴロする音など、耳で聞こえる体の状態で診断します。
体臭、口臭など、嗅いでわかる症状も聞診になります。
(3)問診(もんしん)
何に困っているか、体調、生活歴などを細かく聞いていきます。
雨が降ると悪化するといった、日常の変化を掘り下げることで、より的確な薬に近づけていく診察です。
冷えについて聞くことが多いですが、これは暑がりか、寒がりかで、漢方の体質分類である「陽性」か「陰性」かの判断をするためです。
(4)切診(せっしん)
体に触れて行う診察のことで、脈をみる「脈診」と、お腹を触る「腹診」があります。
脈は、リズムや強弱で体調をチェックします。
お腹では、押したときに力強いか弱いか、違和感はないかを確認します。たとえば、腹診でわかることには、以下のような症状があります。
「腹診」でわかること
・「瘀血」で血行が悪いと、下腹部を押したとき、不快感や抵抗感がある。
・冷え性体質だと、おへその近くや脚のつけ根に抵抗感や痛みがある。
・ストレスの多い人は、肋骨の下が突っ張っている。
この四診によって、「陰陽」「虚実」「気・血・水」などの状態を診断します。その結果わかる、その人の現在の体調や病的な状態を「証(しょう)」といいます。
そして診断名は「葛根湯(かっこんとう)の証」など、漢方薬の名前がつくのです。
風邪のひき始めに「葛根湯」を飲むべき人、飲んではいけない人
「葛根湯」はよく知られる漢方薬で、風邪をひいたかなと思ったらまず飲む、という使い方をしている人も多いのではないでしょうか。
しかし、風邪のひき始めなら、誰でも葛根湯を飲めばいいというわけではありません。
葛根湯の原型は「桂枝湯(けいしとう)」という漢方薬です。これには「桂枝」「芍薬」など、5つの生薬が使われています。さらに「葛根」と「麻黄」という2つの生薬を加えたのが、葛根湯です。
「桂枝湯」も風邪の初期に効く薬ですが「虚証」とされる、体質の弱い人や年配の方に処方します。一方、葛根湯は強い薬なので「実証」、つまり体力のある人に適した薬です。
使う際の見分け方としては、風邪を引いた感じがしても、背中に手を入れて汗をかいておらず乾いていたら「葛根湯」が良いでしょう。
麻黄の効果で体温を上げて、免疫細胞を活性化し、抗体を作ります。
じんわり汗をかいていたら「桂枝湯」が向きます。体力のない人は、風邪のとき汗をかきやすいのです。桂枝湯も汗をかかせますが、その作用は穏やかです。
漢方は体が治る力を引き出す医療
また、葛根湯は1日3回、朝・昼・晩という飲み方をする必要はありません。2、3時間おき飲んで下さい。発汗の様子をみながら飲みましょう。
そして発汗したら、もう飲まなくてOK。風邪の症状はおさまっていきます。
ちなみに、この場合の汗とは、サウナのようにドッとかくのものではなく、ジワッとかくていどです。
そもそも、汗をかいて体温を下げるためではなく、体の免疫力を高めるために体温を上げるのが目的だからです。
風邪の初期症状でも、証により「桂枝湯」と「葛根湯」という2つの薬があり、向き不向きがあります。
そのため、病気を治すための最適な漢方にたどり着くには、漢方薬のことがわかる医師や薬剤師の判断を受けてほしいものです。
そうすればスピーディに回復に向かいます。
ちなみに、一般的には、風邪の熱を解熱剤で下げようとしますが、これは風邪の回復にとって逆効果。体温を上げて高めた免疫力が、低下してしまいます。
この仕組みがわかってきたので、近ごろでは西洋医学でも不要な解熱剤の使用は避けるようになってきました。しかし漢方薬の処方では、こうしたことが何千年も前からわかっていたわけです。
漢方薬を、西洋医学がなかった時代の古い治療法、と思っている人も多いようですが、西洋医学で治らない病気が漢方で治ってしまうこともあります。
それは、ひとりひとりの体質、体調にあわせて、体が治る力を引き出す医療だからではないでしょうか。
一般社団法人 日本東洋医学会のサイトでは、自分の家の近くにある漢方専門医を探すことができます。活用してみてください。
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