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腸内細菌と抗菌薬

腸活にも影響あり!? 抗菌薬(抗生物質)の「正しい使い方」

毎日せっせと腸活に励んで腸内フローラを整えているのに、思わぬことが原因でそれが乱れてしまうことがあります。腸内環境にも影響を与える、抗菌薬(抗生物質)の正しい使い方について解説します。

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提供/国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター

腸活の効果が出ない原因は?

腸内細菌と抗菌薬

私たちの腸内には1,000種類、100兆個もの多種多様な細菌が共生しており、「腸内フローラ」と呼ばれています。腸内フローラは、ヒトの体が消化できない食物を分解して重要な栄養素を生産したり、腸内の免疫細胞を活性化させることで病原菌から身体を守ったりするなど、重要な役割を果たしています。

腸内フローラを形成する菌は、大きく「善玉菌」「悪玉菌」「日和見(ひよりみ)菌」の3つに分かれますが、このバランスは、偏った食生活や不規則な生活習慣などが原因で崩れやすくなるといわれています。その中でもあまり知られていないのが、抗菌薬の使用です。


抗菌薬の影響で善玉菌が減少することも?

細菌感染症の治療に使われる抗菌薬は、病原菌だけでなく、他の害のない菌まで攻撃してしまうことがあります。その結果、腸内の善玉菌も減少してしまい、腸内フローラのバランスが崩れる可能性が。また、抗菌薬の中には腸の働きを過剰にする副作用を持つ薬もあり、下痢などを引き起こすこともあります。

腸内細菌と抗菌薬

必要のない時に抗菌薬を使用したり、正しい用量・用法を守らないと、腸内フローラのバランスを取り戻すことが難しくなってしまいます。

腸活中の人も要注意!薬剤耐性(AMR)と抗菌薬の正しい飲み方

抗菌薬と細菌

そもそも抗菌薬とは、細菌が原因となる感染症の治療に使われる薬のこと。菌そのものを排除する薬もあれば、菌の増殖を防ぐ薬もあります。ペニシリンなど微生物からつくられる「抗生物質」と、化学的に合成された「合成抗菌剤」を合わせて抗菌薬といいます。

細菌感染症の病原菌として代表的なものには、膀胱炎や尿路感染症を起こす「大腸菌」、肺炎や中耳炎の「肺炎球菌」、咽頭炎の「溶血性連鎖球菌」、マイコプラズマ肺炎の「マイコプラズマ・ニューモニエ」などがあります。また、傷ができたときに膿んでしまうのも「黄色ブドウ球菌」などによる細菌感染が原因です。

抗菌薬の説明

一方、かぜやインフルエンザの原因はウイルスです。ウイルスと細菌とでは病原体の構造や増える仕組みが大きく異なるため、抗菌薬はかぜやインフルエンザには効きません

また、細菌感染症の治療として抗菌薬を処方された時は、病気を治すためにきちんと飲むことが大切です。

抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)」が拡大中

同じ種類の細菌であっても、抗菌薬が「効きにくい菌」「効かない菌」が存在します。また、抗菌薬を使っているうちに、その抗菌薬に対抗する仕組みを細菌が作りだすことがあります。特定の種類の抗菌薬が効きにくくなる、または効かなくなることを「薬剤耐性(Antimicrobial Resistance/AMR)」といい、こうした菌を「薬剤耐性菌」呼びます。

実は今、このAMRが世界的な問題になっています。2019年には世界で約 127 万人がAMRによって死亡しており、このまま対策をとらなければ2050年には1000万人が死亡すると想定(※1)され、ひそかに感染が拡大していることから「サイレント・パンデミック」とも呼ばれています。

ところが、2024年7月に国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターが一般を対象に行った意識調査によると、「薬剤耐性」「薬剤耐性菌」といった言葉を聞いたことがある人は43%程度であり、あまり広く知られていないのが現状です。

AMR対策のため、さまざまな広報・教育活動や情報発信を行うAMR臨床リファレンスセンターの佐々木秀悟先生に、AMRについて詳しく教えてもらいました。

※1. Antimicrobial Resistance: Tackling a crisis for health and wealth of nations, the O’Neill Commission, UK, December 2014

Q1 どのような場面で薬剤耐性菌が増えるの

A. 抗菌薬の不適切な使用により、他の菌が排除されることで増えやすくなります。

ヒトの腸や皮膚にはさまざまな細菌がいてバランスを保っていますが、抗菌薬は病気の原因となっている細菌だけでなく、害のない他の細菌も攻撃します。すると、抗菌薬が「効きにくい菌」や「効かない菌」だけが生き残り、耐性菌が増えてしまうことがあります。

抗菌薬と細菌
普段、体内ではさまざまな細菌がバランスを保ち、病気を起こさずにいます。
抗菌薬と薬剤耐性菌
抗菌薬の不適切な使用でバランスが崩れ、耐性菌が生き残り、増えやすくなります。
薬剤耐性菌
生き残った耐性菌は体内に残り続け、ある時に感染症を引き起こしたり、接触などを介して周りの人たちに広がっていったりします。抗菌薬が効きにくかったり、効かなかったりするので、治療が難しくなります。

また、抗菌薬にさらされることによって、細菌自体が抗菌薬に対する抵抗力を獲得することがあります。さらに、そのような能力が他の細菌に広まってしまうということも起こります。

抗菌薬を正しく使用しないと、病気の治療という本来期待している効果より、このようなデメリットの方が大きくなってしまうおそれがあるのです。

Q2 体内に薬剤耐性菌ができると、どうなるの?

A. 抗菌薬による治療がうまくいかず、重症化するリスクが高まります。

本来なら抗菌薬を使って適切に治療可能だった感染症が、細菌が薬に対して抵抗力を獲得することによって重症化してしまったり、死亡に至るリスクが高まったりします。また、足や手をケガして傷口から菌が入って膿んでしまった際、抗菌薬が効かない細菌が原因となっていると、薬による治療が難しくなり、感染した部分からその先を切断しなければならなくなるような事態も起こります。

耐性菌が健康な人に今すぐ生命にかかわるような影響を及ぼすことは基本的にありませんが、例えば免疫力が弱い高齢者や基礎疾患がある人と同居している場合、気づかないうちに耐性菌をうつしてしまい、その方が耐性菌による感染症を発症してしまう、ということも考えられます。

また、耐性菌は体内にずっと残り続けることもあるので、将来、歳を取って免疫力が落ちた頃に感染症を発症し、重症化してしまうという可能性もあるんです。

Q3 日本では年間どれくらいの人が薬剤耐性菌で命を落としているの?

A.代表的な耐性菌2種(※2)による死亡者数は、年間約8,000人と推定されています。

手術や抗がん剤治療などの際には細菌に感染するリスクも高く、感染症治療や予防のために抗菌薬を投与することがありますが、耐性菌が流行して治療薬が限られる状態になると、こういった治療・予防の効果が期待できなくなってしまうことも考えられます。

薬剤耐性は単に感染症が治りにくくなるだけでなく、他の病気の治療にも大きな影響を与えるため、世界的な問題となっています。

※2 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、フルオロキノロン耐性大腸菌

薬剤耐性(AMR)を増やさないためにできること

薬剤耐性菌

AMRの拡大を防ぐためには、普段から手洗い・アルコール消毒、マスク着用や咳エチケット、必要なワクチン接種などを徹底して感染症にかからないようにすることに加え、抗菌薬を正しく使うことが大切です。

かぜの時に抗菌薬をもらわない

かぜの原因のほとんどはウイルスであり、抗菌薬は効果がありません。体内の耐性菌を増やしてしまうことにもつながるため、必要のない時には抗菌薬を使わないようにしましょう。

近年は「ただのかぜなら医療機関を受診しない」「薬はなるべく飲まない」という人も増えてきていますが、かぜだと思ったら別の病気だった、というケースもあるので、症状が気になる場合は必ず受診し、処方された薬はきちんと服用しましょう。

処方された抗菌薬は飲み切る

症状が良くなったからといって、途中で抗菌薬の量を減らしたり、飲むのをやめてしまうと、感染症がぶり返してしまったり、体内で耐性菌が出現したりするおそれがあります。そのような事態を防ぐために、抗菌薬は飲む量・回数・期間を守って、きちんと服用しましょう。

また、「抗菌薬を残しておいていつか使おう」という考えもNG。次に体調を崩した時に、原因は必ずしも前回と同じではありません。病気や細菌によって適切な抗菌薬の種類は異なるので、以前の抗菌薬が次も効くとは限らないのです。

処方された抗菌薬は人にあげない

同じように、処方された抗菌薬を人にあげるのも、もらうのもやめましょう。病気の原因が違えば適切な抗菌薬が異なるだけでなく、体格や持病の有無によって、必要な抗菌薬の量や回数が変わることがあります。また、抗菌薬によるアレルギーを起こしてしまうおそれもあります。

抗菌薬を正しく使って腸も体も元気に!

抗菌薬と薬剤耐性菌

抗菌薬は細菌感染症に欠かせない治療薬です。処方された時には医師の指示に従い、容量用法を守って使用しましょう。そしてそれが、AMRの拡大を防ぐことにつながります。

この機会に、抗菌薬との付き合い方を見直してみましょう。

11月は「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」

政府は、AMR問題に関わる全国的な普及啓発活動を推進するため、毎年11月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」に設定しています。

AMR臨床リファレンスセンターでは「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づく取り組みを行っており、11月の「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」に合わせ、さまざまな啓発キャンペーンや施策を実施しています。詳細はHP

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターhttps://amrcrc.ncgm.go.jp/

イラスト/大野文彰

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