神戸にある漢方相談薬局「CoCo美漢方」田中友也さんが、“季節の養生法”をお届けする連載。今月は、「呼吸」がテーマ。深い呼吸の健康効果と、元気に過ごすための東洋医学のセルフケアを紹介します。

浅い呼吸が心と体の不調に

現代人の多くは、呼吸が浅くなっています。原因は、前かがみの姿勢で肺が広がりにくいことや、運動不足で肺を使う機会が少ないこと、過度な緊張やストレスで交感神経優位になる生活などが考えられます。

呼吸が浅くなると、疲労感、冷え、不眠、メンタル不調など、さまざまな心身の不調につながります。

深い呼吸と栄養が元気な体をつくる

東洋医学で呼吸は、「清気（せいき）」と呼ばれる清らかな気（エネルギー）を体に取り込み、「濁気（だくき）」と呼ばれる汚れた気を排出する作業。清気は自然界の酸素、濁気は二酸化炭素をあらわします。

私たちが健康で過ごすためには、呼吸は欠かせないものですが、元気をつくるためにもう一つ大切なことがあります。それが、食べ物を消化吸収して摂取する栄養です。日常生活の中で「深呼吸」と「食べ物からの栄養摂取」の両方を心がけてみましょう。

また呼吸は、五臓六腑のうち、「腎」も関係しています。腎は、肺で取り込んだ清気を、体の深くまで届ける「納気（のうき）」という作用があります。

腎は、加齢によって誰でも徐々に衰えてきます。しかし、体を酷使しすぎずに十分な睡眠や休息を取り入れた生活を送ることで、腎の消耗を抑え、老化スピードゆるやかにできます。

まずは今日から、ご紹介する「呼吸」を整えるセルフケアを実践してみましょう。

【寝る前のセルフケア】ぐっすり眠れる「丹田呼吸」

呼吸が浅くなると、自律神経が乱れて睡眠にも影響が出ます。寝つきが悪い、ぐっすり眠れないという人におすすめなのが、寝る前におへその下の「丹田（たんでん）」に手を当てて行う呼吸法。寝る前の習慣にすると、呼吸が深くなり、自然と眠くなるでしょう。翌朝の疲労感もすっきり！

【やり方】
（１） 仰向けで寝て、おへその下の丹田（おへそから指４本程度下）に両手を重ねる。
（２） 「ふ～」っと口から息を“細く長く”吐き、最後まで吐き切る。息を吐きながら、体が布団にしずんでいくようなイメージで行う。
（３） 息を吸い、（２）に戻って深呼吸を数回繰り返す。回数は決めず、自分が心地いいと感じるまで。

【日中のセルフケア】呼吸がしやすくなる「大胸筋ほぐし」

長時間のパソコン作業やスマホの使用は、前かがみの姿勢になり、胸の前側にある大胸筋（だいきょうきん）のコリにつながります。これにより、肺が押しつぶされて浅い呼吸に。すきま時間に大胸筋をほぐすマッサージを取り入れると、胸のまわりがほぐれ、深い呼吸がしやすくなります。デコルテ周辺には、肺を元気にするツボも点在。

【やり方】
（１） 鎖骨の下あたりに人差し指・中指・薬指を置く。
（２） くるくると回すようにほぐし、位置を少しずつずらしてマッサージ。わき周辺、胸と胸の間など、コリを感じる部分を探して全体をほぐす。

そのほか、腕を上げて伸びをする、目をつぶって情報を遮断し、ゆっくり深呼吸してみるなど、１日の中で呼吸を整えるセルフケアを取り入れてみましょう。呼吸が自然と深くなると、血流が良くなり冷えも改善。だるさや疲労感のない元気な体をキープしましょう。

今月の養生ポイント：「長～く吐く」呼吸で心も体もゆるめる

「濁気（＝二酸化炭素）」を排出する呼吸は、自分でできる簡単なデトックス方法です。朝起きてから寝るまで、息つく暇もなく忙しい現代女性のみなさん。電車の中やトイレの中、家事の合間など、１日の中でちょっと立ち止まり、深～く呼吸をしてみてください。これだけでイライラ・モヤモヤした心が落ち着き、リラックスできます。

春は、気温の変化が激しく、自律神経が乱れやすい季節。深呼吸は、自律神経を整える効果もあります。春の不調を防ぐために、ぜひ習慣にしてください。深呼吸のポイントは、「吸う」より「吐く」を意識すること。長～く息を吐く呼吸法で、春の草木が芽吹くように心も体ものびのびと過ごしていきましょう。

取材・文／釼持陽子　イラスト／植松しんこ