
35歳以上の高齢妊娠・出産について知りたい|教えて! 菜実先生
女性特有の病気や医療に関する悩みに医師が答える連載。回答者は、優しく丁寧なカウンセリングで人気の産婦人科専門医、山村菜実さんです。今回は「高齢での妊娠・出産」のリスクとメリットについて。
目次
平均出産年齢が上がるなか、高齢出産のメリット・デメリットは?

日本の女性の平均初産年齢は上昇傾向にあり、2023年は31.0歳。一方で、35歳を過ぎて初めて子どもを産むことは「高齢出産」と言われ、医学的なリスクも高まります。
そんななか、今回の質問は「35歳を過ぎてからの妊娠・出産について知りたい」というもの。不安材料だけでなく前向きな情報も欲しいという声に、菜実先生の答えは?
医学的には高齢出産のリスクは大きい

「不安なことだけでなく前向きな情報も」とのことですが、あえて先にネガティブなことをお話ししますね。
若いときの出産と比べて高齢出産は、医学的にはリスクしかないです。身もフタもない言い方でごめんなさい。
まず、妊娠率が35歳からはガクッと落ちて、40代に入ると急降下していきます。逆に流産率は年齢とともに上がって、難産になったり病気や障害を持ったお子さんが生まれる確率も高くなります。
また、産婦人科医としていろいろな方を見てきた経験に加え、私自身の経験からも言えることですが、産後の母体の回復力は20代と30代では大きな差があります。40代ともなるともっとダメージが残り、回復に時間がかかります。 人間も生き物ですから、体の面で言えば“出産に適した年齢”というのはあるんです。なので、生物学的な面だけで言えば「出産をするなら若いほうがいい」というのが私の持論です。ただし、これはあくまで「医学的なリスクと体への負担が少ない」という意味ですね。
高齢出産にはメリットも多い!
とは言え、誰もが若いうちに産めるわけではありませんよね。いろいろな事情で産むのが遅くなる人はたくさんいると思います。女性の活躍の場がどんどん広がる時代ですし、それによって出産年齢が上がるのも当然と言えます。 そこでここからは、私の経験をふまえた「高齢出産のメリット」についてお話しします!
親が精神的に落ち着いている

私は上の子を34歳、下の子を36歳で産みました。ここまでいろいろ言いましたが、私自身、2回目の出産は35歳を過ぎていたんです。
その年で産んで良かったことは、ある程度自分の人生を楽しんで、いろいろな経験を重ねて精神的に落ち着いていたことですね。「一人の時間は楽しんだし、あとは子どもに費やそう」と素直に思えたこと。すると子どもへの接し方にも余裕が生まれます。
もちろん、若いうちに産んで子育てを早く終えて、まだまだ元気なうちに第2の人生を楽しむ! という方もいるし、どちらが正解というわけではありません。あくまで私の場合は、ですね。
ある程度のキャリアや経験を積んでから産める

女性がキャリアプランを考えるなかで、妊娠・出産というのは悩みどころだと思います。私の知り合いのドクターでも、研修医時代に出産したらキャリアが積めず、“医師免許はあるのに仕事に復帰できない”という人がいました。女性が働きながら妊娠・出産を選択するのはまだまだハードな面がありますよね。
それで言うと、社会人としての経験やキャリアを積んでから産めるという点で、高齢出産にはメリットがあると思います。35歳まで働いているなら、一時的に仕事を離れても戻れる可能性が高くなりそうですし、セカンドキャリアも築きやすい。「出産か、退職か」のような究極の選択を迫られずにすむ場合が多いんじゃないでしょうか。
また、年齢が上がることで経済的なゆとりが生まれることも大きいですね。経済面が安定していると気持ちにも余裕が持てますし。 本来は「子どもが欲しい」と思ったときにいつでも産み育てられる社会が望ましいですが、現実的にはこんな点も高齢出産のメリットだと感じます。
高齢出産に備えてできること
高齢出産の予定があったり、今はその気はないけどいつかは…と考えている人へ、今からできる準備についてお伝えします。
卵子凍結

パートナーがいない、今は妊娠・出産をする気がない、子どもを産み育てる環境が整っていない…という人も、将来的に子どもを持ちたくなる可能性があるならば「卵子凍結」をしておく選択があります。
記事冒頭でもお伝えしたように、35歳を過ぎると妊娠率は下がります。これは卵子の老化によるもの。少しでも若いうちに卵子を凍結しておくことで、いつか子どもを持ちたくなったときに備えることができます。
卵子だけを凍結する場合と、精子と受精させた「受精卵」を凍結する場合があり、受精卵のほうが妊娠率は上がります。ただ、その場合はパートナーが必要になるので、ご自身の状況に合わせて選択するとよいでしょう。実際、若いうちに卵子凍結をして、キャリアを築いたり子育ての環境を整えたりしてから、凍結した卵子で妊娠・出産をする女性は増えていますよ。
ただ、卵子を取り出す際の女性の体の負担はありますし費用もかかります。また、凍結卵子で100%妊娠できるわけではなく、妊娠率も加齢とともに下がっていきます。ここでも「(生物学的に)産むのは若いうちがいい」と言えることだけは知っておいてください。
新型出生前診断(NIPT)

高齢出産では胎児の染色体異常の発生率が上がりますが、こうした異常を事前に発見できる検査に「新型出生前診断(NIPT)」があります。採血だけでわかるので妊婦さんや胎児への負担はありません。
NIPTではダウン症候群と呼ばれる21トリソミーなど、比較的発現しやすい染色体異常の可能性に早期に気づくことができます。ただし、NIPT自体は確定診断ではないので、検査で陽性が出たら適切なカウンセリングや追加検査を受ける必要があります。
NIPTについては、結果が陽性の場合に妊娠継続をあきらめる人が出るのでは、などさまざまな意見があり、何が正しいかは分かりません。ただ、現実には重い障害を持ち、生まれてすぐに亡くなってしまうようなお子さんもいます。NIPTを受けることで親御さんがそのつらさを味わわずにすんだり、覚悟と準備をしたうえで産める、というのはメリットだと思います。 高齢出産を考えている方に、このような検査もあるということを知っておいていただければ。
食生活

できるだけ栄養バランスの取れた食事も心がけたほうがいいと思っています。ドクターのなかには“食事で妊娠率は変わらない”という方もいて、たしかに何かデータがあるわけではないのですが、自分の体は自分が食べたものでできていると考えると、私は関係があると思っています。
と言っても私もジャンクフードは好きで食べますし、コンビニ弁当なども食べますよ。ただ、やはりそればかりだと体の質は低下するんじゃないかな。あまり意識しすぎると負担になるので、ストレスを感じない程度にちょっと気を付ける、くらいで大丈夫。「食べ物が体を作る」の意識を頭の片隅に置いて生活してみてはいかがでしょう。
高齢出産は不妊治療も視野に入れて

質問者さんがもし子どもを望んでいらっしゃるのなら、私は不妊治療をおすすめします。
もちろん費用はかかりますし、治療にまつわる体への負担、通院の負担などはありますが、妊娠率は上がります。 “子どもは授かりもの”という考えも共感できますが、年齢とともに妊娠率が低下するなかで、迷っていられる時間は多くありません。
以前に不妊治療を専門にしているドクターと話したとき、その先生は「性行為は子どもを作る手段だと思わないほうがいい」とおっしゃっていました。子どもは生殖医療で授かればよく、セックスはセックスとして楽しめばいいと。
この発言の背景には、子どもを作ろうとして性行為をするものの、なかなかできずに悩むなかで行為自体が嫌になってしまう人が多い現実があると思います。だから、そこはもう医療にゆだねればいいんだよと。
話が少しそれましたが、相談者さんが子どもを欲しいと思われるなら、ぜひ不妊治療も視野に入れてみてください。
不妊治療についてはもう少しお話しできることがありそうです。次回、詳しくお伝えします。
山村菜実先生への質問を募集中!
この連載では、産婦人科専門医で美容クリニック理事長でもある山村菜実先生への質問を受け付けます。ご応募いただいた質問の中から選ばせていただき、連載の中で山村先生からお答えします。
産婦人科や美容医療に関するお悩みや質問をぜひお寄せください!
*次回記事は4月28日(月)に公開予定です。
[ 監修者 ]

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