沈黙の臓器「肝臓」を元気にする足つぼは?
肝臓は“沈黙の臓器”とも言われ、病気になるまで気づきにくい臓器。だから、日ごろから少しでもいたわることが大切です。今回は、鍼灸師の布施雅夫さんが“肝臓を元気にする足つぼ”を解説します。
目次
最もガマン強い臓器!? 肝臓の働きとは?
肝臓は、解毒や代謝、エネルギーの貯蔵など各臓器を正常に動かすために幅広い働きをしています。なかでも解毒は、アルコールなどの有害な物質を壊す大切な役割。当然、飲みすぎたり、食べすぎたりして生活習慣が乱れると、臓器に負担をかけます。
しかし、肝臓は「沈黙の臓器」とも言われ、ダメージを受けて機能が少し低下しても再生能力が高く、他臓器と比べて症状が現れにくいのが特徴。そのため、気づいたときには肝臓が悪化していた、なんてことも。自分から声を上げない、ガマン強い臓器だからこそ、日ごろから肝臓をいたわる生活をすることが大切です。
ちなみに、東洋医学では、内臓器官のことを「臓腑(ぞうふ)」と言い、ます。また、「五臓六腑」という考え方があり、五臓とは肝臓の「肝」、心臓の「心」、脾臓(ひぞう)の「脾」、「肺」、腎臓の「腎」を指します。六腑は、胆のうの「胆」、「小腸」、「胃」、「大腸」、「膀胱」、臓器と臓器の隙間の「三焦(さんしょう)」を指します。それぞれ臓器そのものだけではなく、臓器の働きやその働きによって起こるさまざまな現象を表します。
この中で「肝」は、自然のサイクルにもっとも敏感です。肝に不調がある人は、生活が不規則になっていることが多いと言われています。例えば、最も肝に良くないのが夜更かし。肝をいたわるためには太陽が出ているときに起きて活動し、太陽が沈んだら休む。このように、自然のサイクルに合わせた生活を送ることが大切です。
そもそも、足つぼや「経絡(けいらく)」とは?
東洋医学では、体には「経絡(けいらく)」という通り道が流れていると考えられています。経絡はそれぞれの臓腑とつながっていて、その中を生命エネルギーの「気」や、気を運んだり体をうるおしたりする「血(けつ)」が通っています。経絡は全部で14本あり、体全体で1本につながっています。これらの経絡の上に361個のつぼが存在しています。
つぼは、体の中でトラブルが起こっている場所を教えてくれます。東洋医学の考え方では、体の中は宇宙と同じように気の流れや水、鉄があるとされていて、体の不調が起こると、それらの流れが停滞します。そのときにつぼを押すと、経絡に刺激が伝わり、気や血の巡りがスムーズに。みるみるうちに、本来体が持つ元気を取り戻し、不調のある臓腑を自然治癒していきます。
足つぼを押すときのコツは?
つぼは全身にありますが、足つぼは自分の手が届くところにあるため、押しやすく、セルフケアしやすいのも魅力。ここからは、自分で押すときに上手に足つぼを刺激するコツをご紹介します。
【押し方1】押す角度は垂直
足つぼを押すときは、つぼに対して指を垂直に当てます。指のハラの真ん中をつぼに当てて、まっすぐ押し込みます。つぼに対してななめの角度から当てたり、指がグラグラと不安定になりながら押したりするのはNGです。
痛気持ちいい力加減で押すと、体がゆるんで心地よくリラックスできます。痛みを感じるほど強い力で押すと、かえって筋肉を緊張させてしまい、上手く体をゆるめることができません。
また、つぼ押しをするときは、自分の指で押しましょう。指から出る「気」が、体の中の流れを良くしてくれます。
【押し方2】押す時間は3~5秒くらい
押し方でもうひとつのポイントは、息を吐きながら、3~5秒くらい深く押すこと。息を吐くと関節の空気が抜けるため、つぼが入りやすくなります。1~2分の間に、つぼを押して離すのをゆっくり繰り返してください。ただし、何度も押しすぎると皮膚や筋肉などを傷めて、腫れや痛みの原因になってしまうため、やりすぎには注意しましょう。
つぼに上手く当たっているかは、何回も同じつぼを押していくうちに、つかめてきます。「気持ちいい!」と感じたときが、つぼにヒットしているサインです。人によっては、そのつぼを触るだけで眠くなるくらい気持ちよくなることも。ぜひ何回もトライして、自分のつぼを当ててみてくださいね。
【タイミング1】就寝前のつぼ押しで自然回復力アップを
つぼ押しのベストなタイミングは、寝る前。布団の上で最も効果的な時間を狙って行いましょう。睡眠は、自然回復力を高めると言われています。「あとは寝るだけ」というリラックスしたタイミングにつぼ押しをすると、体の回復がよりスムーズになり、ぐっすり眠れます。もちろん、昼間の仕事や家事でちょっと疲れたときに、足つぼを刺激して、プチ休憩するのもいいでしょう。
【タイミング2】体調が悪いときはNG
つぼ押しをおすすめできないタイミングは、体調の悪いとき。東洋医学では、自然には逆らわないという考えを大切にしています。しんどいときは、ゆっくり横になって休み、自然に体が回復するのを待ちましょう。また、妊娠中のつぼ押しもあまりおすすめできません。
足つぼは押すだけでなく、温めるのもアリ
足つぼは、押すだけでなく、カイロや貼るお灸で温めるのも効果的。冷えが気になる人は、足つぼをじんわり温めて、ぽかぽかになりましょう。
肝臓の不調に効く「足つぼ」とつぼの押し方
ここからは、肝臓の調子を整える足つぼ4つをご紹介します。「肝胆相照らす仲」という人間関係の親密さを表すことわざがあるように、東洋医学では「肝臓」と「胆のう」には深い関係があると言われ、肝臓の不調は、胆のうの不調につながります。肝臓と密接に関わる経絡「肝経」に点在するつぼは、胆のうも元気にしてくれますよ。
肝臓と胆のうを癒す「太衝(たいしょう)」と「太白(たいはく)」
太衝(たいしょう):足の甲にあるつぼ。親指と人差し指の骨の間を足首に向かって撫でていくとくぼみがあり、軽く触ると、脈を感じる場所。太衝は、「原穴(げんけつ)」と呼ばれ、その経絡の中で基本となるつぼ。「肝経」の中で、とても重要なつぼに当たります。
太白(たいはく): 足の親指の横をかかとに向かって撫でていくと、骨の出っ張りを感じる部分があります。その出っ張りの横のくぼみが太白です。脾臓とつながる経絡「脾経」の原穴です。胃の調子を整えるつぼで、太衝と一緒に押すと効果的。
押し方:あぐらをかいて座り、つぼを押したい足と同じ方向の手を使って押します。人差し指を「太衝」、親指を「太白」に当てて、つまむように同時に押しましょう。
肝臓の急な不調には「中都(ちゅうと)」、慢性的な不調には「蠡溝(れいこう)」
中都(ちゅうと):すねにあるつぼで、内くるぶしから親指7本分くらい上にあります。中都は、「郄穴(げきけつ)」と呼ばれるつぼです。郄穴は、急に感じた不調を和らげる効果があります。
蠡溝(れいこう):中都と同様にすねにあるつぼで、内くるぶしから親指5本分くらい上にあります。慢性的な不調に効く「絡穴(らくけつ)」というつぼです。
押し方(中都・蠡溝共通):あぐらをかいて座り、つぼに中指を当てて、垂直に押します。
体のあらゆる機能に関わる、働き者の肝臓。少し弱ってもすぐに気づくことは難しい臓器です。だからこそ、普段から気遣ってあげることが大切。肝臓が影響を受けやすい不規則な食生活や寝不足はNG。疲れたら早めに休むことも大切です。ご紹介した足つぼを刺激して、元気な肝臓を取り戻しましょう!
文/廣瀬茉理 イラスト/中村加代子